2018年2月16日06時00分 朝日 https://www.asahi.com/articles/SDI201802143008.html
みなさんの職場は禁煙ですか?分煙ですか?それとも、混ざった状態ですか?タバコの煙とがん、そして就労との関係をもう一度考えてみましょう。
タバコの煙の中には70種類以上の発がん性物質が含まれており、タバコを吸わない人でも、タバコの煙や喫煙者が吐き出した煙を吸い込む、いわゆる「受動喫煙」による日本人の肺がんリスクは約1.3倍になると国立がん研究センターからも発表されています(平成28年8月)。
タバコの煙は、がん以外にも、脳卒中や心筋梗塞、呼吸器疾患、アレルギーなどの病気にも影響することがわかっていますから、受動喫煙は、社会全体で取り組むべき問題でもあります。2020年の東京五輪・パラリンピック開催は目前です。受動喫煙については、国際オリンピック委員会(IOC)が「たばこのない五輪」を目指していますから、開催までの対応も必要になっています。
皆さんは欧米のタバコのパッケージを見たことがありますか?
売店や免税店などで、「喫煙は心臓発作の原因です」などの警告メッセージと、健康被害を示すグロテスクな写真が、タバコのパッケージに表示されているのを見たことがある人も多いと思います。日本と違って、ブランド名、商品名も小さな表示ですし、色なども暗い色を使うといった規制があるのが欧米の標準なのです。
タバコを吸う本人ではなく、その周囲の人々が自分の意思とは関係なくタバコの煙を吸い込んでしまうことを「受動喫煙」と言います。この受動喫煙が原因で、年間約15,000人も亡くなっていると推計されています(厚生労働省研究班)。
また、2014年度には、たばこが原因で100万人以上が、がんや脳卒中、心筋梗塞などの病気になり、喫煙で年間約1兆1700億円、受動喫煙で約3,200億円、あわせて1兆4900億円もの医療費が費やされていると推計されており、これは国民医療費の3.7%にもなる大きな数字なのです。医療、介護などの社会保障給付費は毎年増加し続けています。受動喫煙などの問題は、これからの日本の未来を考えていく上でも、本気で考えなければならないのです。
タバコの煙は、がん患者の就労にも影響しています。日本肺がん患者連絡会らの調査(215人)では、「肺がんになってから受動喫煙した場所は、飲食店が86・5%で第1位。多くの肺がん患者さんがタバコの煙を吸い込むことで再発への不安を感じており、今なお、就労者の3割が受動喫煙を受ける環境にある」ことがわかりました。
働く人は、仕事の内容を選ぶことができても、職場の禁煙環境まではなかなか選ぶことができません。特にがん患者は、症状が悪化するのではないか?再発するのではないか?と、不安を感じながら毎日働いているのです。飲食店の店舗面積で規制を変えようとの議論もありますが、患者にとっては面積の大小は関係ありません。吸う人も、吸わない人も、安心して働ける環境が必要なのです。
厚生労働省では、受動喫煙対策強化のための健康増進法の改正を現在も検討しています。
こうした動向を踏まえて、日本癌学会(理事長:中釡斉)、日本癌治療学会(理事長:北川雄光)、日本臨床腫瘍学会(理事長:南博信)のがん関連3学会と、全国がん患者団体連合会(理事長:天野慎介)は、1月24日に連名で「受動喫煙防止対策を強化する健康増進法改正案に関する要望書」を厚生労働大臣宛てなどに提出しています。記者会見の中でも、タバコの煙と発がんリスクの関係は明確であり、健康被害から国民の命を守ることの大切さが繰り返し訴えられました。
東京都では「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」が賛成多数で可決、国より先行して成立しています。条例の中には「子供は自らの意思で受動喫煙を避けることが困難で、保護の必要性が高い」と明記され、保護者に対し、子供がいる室内や車内で喫煙しないことや分煙が不十分な飲食店などに立ち入らせないことなどが求められています。
しかしながら、条例は努力義務で、罰則規定はありません。2月13日には、超党派の国会議員連盟(会長:尾辻秀久参議院議員)が、喫煙可能な飲食店の範囲を狭めた「対案」を公表しています。国民の命を守るためには、党派を超えて、吸う側の権利、吸わない側の権利、双方の議論をしっかり行い、法の中で受動喫煙の防止についてしっかりと明記することが大切です。