「時代錯誤」患者ら批判 自民了承の受動喫煙対策

2018年2月23日07時07分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASL2R23ZJL2RUBQU003.html 

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 自民党厚生労働部会は22日、厚生労働省が示した受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を了承した。飲食店は原則屋内禁煙とするが客席100平方メートル以下で、個人経営か資本金5千万円以下の中小企業が経営する既存店では、例外的に喫煙を認める。与党の手続きを経て、3月上旬にも閣議決定し、今国会での法改正案成立をめざす。

 飲食店などの喫煙専用室の準備期間を考慮し、対策の全面実施を2020年4月とする。飲食店などでの規制はラグビーワールドカップに間に合わない見通し。違反が悪質な場合、施設管理者に最大50万円、たばこを吸った人に同30万円の過料を科す。都道府県知事らの指導や勧告、命令に従わない場合に適用する。

 この法案をめぐっては、厚労省は昨年3月、30平方メートル以下のバーやスナック以外を原則禁煙とする骨子案を公表。昨年の通常国会での法改正をめざしたが、厳しい規制を訴えた当時の塩崎恭久厚労相と、飲食店の客離れを懸念する自民党側の調整がつかず、法案を提出できなかった。

 ただ、8月の内閣改造で塩崎氏が交代。加藤勝信厚労相のもと、厚労省は、20年の東京五輪パラリンピックの日程を踏まえ、党との調整を進められるよう、例外となる店舗を拡大するなど、規制を後退させた。

 一方で、党内の規制推進派からも理解が得られるように、新規店は原則禁煙という要件を付け加えた。飲食店は2年間で2割弱、5年間で3割強が入れ替わる。厚労省幹部は「後退しただけと見られないように考えた。徐々に喫煙店は減っていく案だ」と話す。

 学校や病院、官公庁は原則敷地内禁煙とする。ただし屋外で必要な措置がとられた場所では喫煙を認める。職場やホテルは、飲食店と同様に原則屋内禁煙とし、喫煙専用室での喫煙は認める。

 加熱式たばこも規制に加える。ただし、一般的な紙巻きたばこよりも緩やかな内容で、加熱式専用の「喫煙室」を設ければ、飲食しながらの喫煙を認める。

 この日の部会では、「飲食店の例外を認めるべきではない」などの反対意見もでたが、部会長に対応を一任することで決着した。

 規制推進派の「自民党受動喫煙防止議員連盟」の山東昭子会長は部会後、「いまは全くルールがない状況でルールを作らないといけない。パーフェクトではないが、様子を見るということで容認した」と話した。

患者ら批判 国際基準からも遠く

 今回の案で例外となる飲食店は、厚労省の推計では全体の約55%。昨年公表した原案から対象は広がり、規制は大きく後退した。

 国際的にみても世界保健機関(WHO)の受動喫煙対策の格付けで、日本の現状は最低ランクの4番目。今回の案が実現しても1ランク上がるにとどまる。

 国際オリンピック委員会(IOC)とWHOは2010年、たばこのない五輪の推進で合意。それ以降に五輪を開催したロンドンやリオデジャネイロでは、飲食店などの屋内全面禁煙が実現した。冬季五輪開催中の韓国では、バーなど一部業種以外は原則屋内禁煙とする。

 全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「例外が過半数に上り、もはや原則喫煙を認める案だ。世界的な流れは屋内禁煙なのに時代錯誤も甚だしい」と指摘。「東京五輪に向けて法案を作ることが目的化し、守れる命を守るという本来の趣旨から外れたもので残念だ」と話した。

 大島明・大阪国際がんセンター特別研究員は「飲食店の経営に配慮するなら、例外を設けるべきではない。過半数を例外にするとは全く評価できない」と批判する。喫煙専用室などの費用を一部助成する厚労省の方針には「税金をあてるなんて話にならない。受動喫煙を防ぐには、屋内ではなく屋外に吸える場所を確保していくべきだ」と述べた。