2018年5月29日05時00分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/DA3S13515447.html
あさって5月31日が世界禁煙デーと定められたのは1988年のことだ。30年たってなお、日本の受動喫煙対策は4段階で評価するWHO(世界保健機関)分類の最低ランクにある。
政府が今国会に提出している法案は、これを1段階引きあげるものでしかないが、「対策」の名に値しないこの法案でさえ成立が危ぶまれている。
議論の場となる厚生労働委員会が働き方改革法案をめぐって紛糾。より厳しいたばこ規制が必要だと唱える側にも、規制に後ろ向きな側にも、審議を進めようという強い意欲はみられず、いわば漂流状態にある。
このままでは、東京五輪・パラリンピックで来日する人を紫煙で迎えることになりそうだ。施政方針演説で「受動喫煙防止対策を徹底する」と述べた、首相の言葉の軽さが際立つ。
一方で、こうした政府や国会をしり目に、世界との溝を埋めようとする動きが、自治体や企業の間に広がっている。
東京都は先月、独自の条例案の骨子を公表した。規模の大小を問わず、従業員を雇う飲食店は原則禁煙とする内容だ。たばこを吸う専用室を設けることは許容しており、たばこ規制枠組み条約に基づく「指針」に照らすとまだ不十分だが、対象は都内の飲食店の8割以上になる。政府案のずっと先をいくもので、都議会の各会派がどんな対応をとるか、注目したい。
ほかにも、奈良県生駒市が勤務時間中の喫煙を禁止し、たばこをやめる職員への支援策を充実させると表明した。東京都調布市は、市内にある全面禁煙の店をホームページで紹介して後押しする。民間でも、喫煙所を撤廃して終日禁煙にした会社や、傘下のほとんどの店を全面禁煙にする方針を打ち出した居酒屋チェーンの取り組みなどに注目が集まっている。
こうした受動喫煙をなくすためのアイデアを社会で競い合いたい。首長や経営者は、職員や住民、社員らに趣旨をていねいに説明して、幅広い理解と支持を得ることが大切だ。
最近新たな論点になっているのが、利用者が増えている加熱式たばこだ。受動喫煙の原因の副流煙はほとんど出ないとされるが、吸った人が吐く息に有害物質がふくまれるとの報告がある。健康への影響が明らかでない以上、通常のたばこと同じ扱いにすべきではないか。
たばこの煙は好き嫌いの問題ではなく、一人ひとりの命や健康にかかわる。その認識にたって、「最低ランク」のこの国の姿を、着実に変えていきたい。