2018年6月28日06時00分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASL6X01H7L6WUBQU01F.html
東京都の受動喫煙防止条例が27日、都議会本会議で賛成多数で可決、成立した。飲食店は従業員を雇っていれば原則屋内禁煙(喫煙専用室は設置可)となり、国会で審議中の健康増進法改正案より規制対象が広い。年内から段階的に施行し、飲食店内の禁煙、罰則(5万円以下の過料)の適用などの全面施行は2020年4月からとなる。
小池百合子都知事は20年の東京五輪・パラリンピックの開催都市として受動喫煙対策を進める方針を打ち出し、国の法改正を待たずに条例成立を目指すと強調してきた。採決で小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会、公明党、共産党、立憲民主党・民主クラブ、かがやけTokyoなどが賛成した。自民党は「国との整合性をとるべきだ」と反対した。従業員の有無を基準に喫煙を規制する条例は全国初で、五輪会場となる周辺自治体でも検討する動きが出ている。
都条例では、子どもが利用する幼稚園や保育所、学校は敷地内の喫煙所設置を認めず完全禁煙に。行政機関や病院も屋内は完全禁煙だが、屋外喫煙所は認める。飲食店内は、面積にかかわらず従業員を雇っていれば原則屋内禁煙と規定。喫煙専用室の設置は認めるが、その中で飲食はできない。都条例では都内の飲食店の約84%が規制対象になる。都は喫煙専用室の設置費の9割を補助(上限300万円)する考えだ。
国の法改正案は、客席面積100平方メートル以下で個人経営か資本金5千万円以下の中小企業が営む既存飲食店での喫煙を認める。厚生労働省によると、屋内禁煙となる飲食店は約45%とされる。
一方、加熱式たばこについて、都条例は健康被害が明らかになるまで罰則を適用しない。ただ、国の法改正案が成立すれば罰則が適用される。いずれも専用の喫煙室での飲食を認める。
2018年6月28日05時00分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/DA3S13559975.html
2020年東京五輪・パラリンピックを見すえ、国の規制案より厳しい東京都の受動喫煙防止条例が成立した。都内の飲食店の大半が対象になり、大手チェーンも対応を検討し始めた。日本の受動喫煙対策が変わるきっかけとなるのか。自治体主導の規制は広がっていくのか。東京が投じた一石に注目が集まる。▼1面参照
「『健康ファースト』を実現していこうというものです」。小池百合子・東京都知事は27日、条例が都議会で成立すると、旗印の「都民ファースト」になぞらえ、アピールした。
2年前の都知事選で掲げたのが「受動喫煙対策の推進」だった。国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)は「たばこのない五輪」の推進で合意。一部を除く五輪開催地は飲食店など屋内を全面禁煙としてきた。そうした状況も前面に出し、対策の必要性を強調した。
都は昨年9月、厚生労働省の当初案と同様に、面積30平方メートル以下のスナックなどを除く飲食店を原則禁煙とする条例案を公表。都内の飲食店の約91%が規制の対象とされた。しかし、国の規制案は自民党との調整が難航。客席面積100平方メートルを基準とする案が今年3月に閣議決定された。
小池知事はこの間、国に対して「やる気があるのか」と批判を強め、幹部らの会合で見直しを指示。都は従業員の有無で線引きする独自案を作った。都の条例で規制対象となる飲食店は約84%で、約45%が対象の国の案より厳しい。整合性を問われないよう、小池知事は今年4月上旬、加藤勝信厚労相に面会。「法案はナショナルミニマム(国の最低限の基準)。条例で上乗せしていい」と言われ、検討が前進したという。
飲食業界は再三、見直しを求めたが、都はほぼ変更せず押し切った。知事周辺は「就任2年の任期折り返し地点に来て、条例が成立しなかったらまずかった」と安心する。
都によると、準備期間を取るため、条例は段階的に施行する。来年9月から幼稚園や学校の敷地内が完全禁煙、行政機関や病院も建物内で禁煙となり、飲食店でも、まずは客に分かりやすく示すよう「喫煙」か「禁煙」のステッカーの表示を義務化する。20年4月には、飲食店なども規制され、罰則の適用も始まる。
■一部の自治体、追随も
他の自治体でも条例を検討する動きが出ている。
20年五輪・パラリンピックでレスリングなど7競技が開催される千葉市の熊谷俊人市長は「会場都市として市民の健康を守る」と、年内に条例案を市議会に提出する方針だ。従業員がいる飲食店を原則屋内禁煙とするなど都条例に近い内容を検討している。市議会も全5会派が今月21日、「国の法改正案は飲食店の対策が十分とは言えない」と、対策強化を市に要請した。市議50人のうち喫煙者は数人。2年前に禁煙した自民市議は「市は万全の準備で五輪を迎えてほしい」と話す。
20年大会でゴルフなどの競技会場を抱える埼玉県でも、自民県議団の中で今月、独自の条例制定を目指して検討を始めた。1年ほどかけて国の案より厳しい条例案を作るという。
大阪府でも、松井一郎知事が4月、店舗面積30平方メートル以下のスナックやバーを除く飲食店を原則禁煙にする独自の条例制定を目指す考えを表明。誘致活動を進める25年万博に向けて規制する考えだ。
ただし、朝日新聞が5月に47都道府県に行ったアンケートでは、大半の自治体が、法改正案が国会で議論されていることを理由に独自の条例制定を「検討していない」と回答した。
地域医療振興協会の中村正和・研究センター長は、都条例について「海外と比べれば規制は不十分だが、罰則付きで職場や8割以上の飲食店が規制されれば、対策が進む。一定評価できる。今後、他の自治体の取り組みの参考になる」と期待する。
■加熱式の専用室、飲食可 空き店舗改修、喫煙所に 大手チェーンや区市町村、対策
条例成立により、都内の飲食店約13万4千店が、屋内を完全禁煙とするか、喫煙専用室を設置するか判断を迫られる。2年後の全面施行を前に大手チェーンは対応を検討し始めている。
「時代の流れですね」
ファストフード大手「ロッテリア」の広報担当者は話す。今は都内37店のうち30店が分煙型で、喫煙しながら飲食できる。条例を踏まえ、原則全席禁煙にする方向で検討を進めている。
喫煙する客が離れる不安は「正直ある」。だが、条件は他店も同じで「家族連れなどたばこを吸わない方々の来店を期待したい」とも言う。国の法律で禁煙の対象外となる東京以外の100平方メートル以下の店については「全国一律で都条例に合わせるという議論も出ているが、未定」という。
完全禁煙を避ける店もある。加熱式たばこ専用の喫煙室内での飲食は認められるため、ある大手コーヒーショップ会社はすでに、都内の店で、紙巻きたばこ用の喫煙室だけでなく加熱式たばこ用の喫煙室も試行的に設けた。担当者は「このような形態を広げることになるだろう」という。
一方、区市町村からは「路上喫煙が増えるのでは」と懸念する声がある。歩きたばこなどが増えるのを防ぐため、小池氏は都議会で、屋外公衆喫煙所の設置費を区市町村に全額補助する考えを表明した。02年から路上喫煙を禁止している千代田区は、屋外の用地確保が難しいとし、補助金で空き店舗などを公衆喫煙所に改修して喫煙所拡充を目指す方針だ。
施行後、飲食店などへの指導は各地の保健所が担うことになり、人手の確保も課題だ。杉並区の路上喫煙防止の担当者は「『なぜうちだけ指導されるのか』と不公平感が出ないよう、人員を投入する必要がある。だが保健所の職員だけでは足りない」と話す。都は今後、自治体と協議し、指導方法を検討するという。