2019年1月29日12時18分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASM1P56Y6M1PUHBI01N.html?iref=comtop_8_03
たばこ箱の「喫煙は健康を害する」という警告文。いまは包装の3割の面積だが、来年4月から5割に増える。東京五輪を前に財務省が決めた。世界保健機関(WHO)が2003年に定めた「推奨」の水準にやっと達するが、諸外国では見た目に害がわかりやすい画像を使うなど、もっと強い表現がふつうだ。
膨れた舌(フランス)、真っ黒い肺(トルコ)、巨大な腫瘍(しゅよう)(インド)、白濁した眼球(カザフスタン)、ぼろぼろの歯茎(イタリア)、血を吐く女性(デンマーク)、吸い殻の詰まった内臓(ブラジル)。すべて、たばこの包装に描かれた画像だ。
カナダがん協会の昨年の調査では、118の国と地域がこうした画像を採用する。たばこによる健康被害を減らそうという意識が高まり、21世紀に入って増えた。文字より効果的に健康への影響が伝わり、未成年者の喫煙防止にも効果があるという研究もある。
だが、財務省は今回の改訂で採用を見送った。2016年に行ったアンケートで、こうした画像は「過度の不快感、恐怖感を与える」と回答した人が61%に及んだからだ。
もっとも、同じ年の国立がん研究センターの調査では、画像の不快感は同様の結果だったが、警告表示に画像を入れることには成人の70%、喫煙者でも46%が賛成した。不快だが必要という意識は、日本人の間でも高いようだ。
カナダ、タイ、ロシアといった国々は店頭でのたばこ陳列を禁じる。店員に銘柄を告げると棚の奥などから出される。この方式なら非喫煙者が画像を見る機会は減るが、財務省の審議では話に上らなかった。
今回の改訂の目玉は、警告の文字を大きくし、色を白か黒に限定して見やすくすることだ。また、財務省が示した改訂後の警告の例は、「望まない受動喫煙が生じないよう、屋外や家庭でも周囲の状況に配慮することが、健康増進法上、義務付けられています」。従来の警告よりも短くなっている。
一方、他国では「喫煙は殺す」(フランス)、「喫煙はゆっくりと痛みを伴う死につながる」(ベトナム)、「あなたの煙を他人に吸わせるな」(豪州)などと直接的で簡潔な文言が目立つ。ブラジルではパッケージ上部に「死」「毒の煙」「壊死(えし)」といった単語を記している。
また、英国、ノルウェー、豪州などではたばこの箱に銘柄のロゴを印刷することを禁止し、銘柄名はごく小さな字で書かれているだけだ。ただ一方で、共通する数種類の画像や警告文が大きく印刷されている。
禁煙で健康な人が増えれば、医療費の削減につながり、財政の健全化にも効果が見込まれるはず。なのになぜ、日本の警告は諸外国に比べてソフトなのか。
日本禁煙学会の宮崎恭一・総務委員長は「たばこ産業側の理屈で動いている」と指摘する。「銘柄のロゴを見せるのは、つまり宣伝。画像や警告文はその否定だが、日本たばこ産業(JT)株の大株主でもある財務省は、そこに切り込まない」
デンマーク 19・1
ブラジル 14・0
オーストラリア 14・8
イタリア 23・8
カザフスタン 25・1
フランス 32・9
インド 11・3
トルコ 27・6
パキスタン 19・8
ベトナム 23・5
ミャンマー 20・8
北朝鮮 データなし
日本 22・5
米国 21・9
中国 25・2
フランスのたばこ。ふくれた舌の写真が載っている=疋田多揚撮影