完全禁煙に踏み切れぬ大学の苦悩 近隣の目と法の抜け道

2019年4月20日17時40分  朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASM4N5KG3M43ULBJ00C.html?_requesturl=articles%2FASM4N5KG3M43ULBJ00C.html&rm=291

 

 新年度を迎え、キャンパスを禁煙とする大学が増えている。学校の敷地内が改正健康増進法により原則禁煙となる7月を控えてのことだ。一方、先駆けて禁煙としたものの、路上喫煙や吸い殻のポイ捨ての増加を理由に、喫煙所を設けて分煙に戻す所もある。未成年者や喫煙可能となる20歳も通う大学の悩ましい事情を探った。

 龍谷大京都府)のキャンパスの片隅。幅4・5メートル、奥行き2・2メートル、高さ2・7メートルの喫煙所がある。密閉型の「卒煙支援ブース」。ドアを開けると、「たばこの煙には200種類以上の有害物質がある」「たばこを吸い続けた肺は真っ黒になります」などと書かれた紙が壁に貼られていた。

 2009年4月に敷地内を全面禁煙にした。すると、校門付近や近くの路上で学生が吸うようになり、「吸い殻が落ちている」などの苦情が住民から相次いだ。大学は10年9月に方針を変え、他人のたばこの煙を吸う受動喫煙対策として屋外の通行人が少ない場所に喫煙所を置き、密閉型の喫煙所も六つ設けた。

 約2万人の学生が通い、昨年の喫煙率は5%。喫煙歴2年の男子学生(22)は「全面禁煙はやりすぎだ。喫煙所がなくなれば、学内で隠れて吸う人が出てくる」。吸わない女子学生(20)は「健康に悪いのになぜ吸うのか分からない。全面禁煙にした方がみんな一斉にやめやすいはず」と話す。

 たばこは一度始めるとやめにくく、吸いにくい環境をつくれば喫煙者は減る傾向にある。大学は「卒煙」を呼びかけ、希望者にはニコチンパッチを無料で医師が処方する。毎年数人が禁煙に成功し、喫煙率は少しずつ下がっているという。同大の担当者は「全面禁煙を目指す方向性は変わっていない」と話す。

 山形大の小白川キャンパスは07年に全面禁煙にした。だが、キャンパス付近での喫煙や吸い殻のポイ捨てへの苦情が近隣住民から寄せられたため、13年に喫煙所を設けた。秋田大も10年に手形キャンパスを禁煙にしたが、13年に同様の理由で分煙にした。

 中央大(東京都)の多摩キャンパスは18年9月に全面禁煙を予定し、同年4月から喫煙所を段階的に減らした。ただ、同じ理由で喫煙所の撤去を今年4月末まで延期した。担当者は「全面禁煙を目指すが、喫煙所の撤去時期は未定」とする。

 大阪大も全面禁煙を15年4月から実施する予定だったがこれまで2度延期。担当者は「大学周辺でのポイ捨てなど懸念が払拭(ふっしょく)されていない」と話す。

 当面は分煙を続ける方針とする大学もある。上智大は1カ所の喫煙所を継続する予定。「都内は路上喫煙の条例がある自治体も多く、中でも外でも吸えなくなる全面禁煙に踏み切るのは難しい」。青山学院大は2カ所ある喫煙所を今年度に1カ所減らす予定という。「学校外での喫煙者増加や構内での隠れ喫煙などの弊害を考慮した結果」としている。

改正法、抜け道も

 受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が昨年成立し、20年4月までに段階的に施行される。今年7月以降は、大学を含めた学校や病院、行政機関は原則、敷地内禁煙が義務づけられる。屋内に喫煙所を設置したりすると、施設管理者に最大50万円の過料を科す。

 家田重晴・中京大教授(学校保健学)の調査によると、今年3月時点で敷地内を全面禁煙にしていた大学は、782の約4分の1の197大学。改正法を機に今春、禁煙化する大学も増えている。4年制では高知大や佐賀大など8大学が4月から。追手門学院大(大阪府)は4月開設の「茨木総持寺キャンパス」を禁煙にし、学生に学内禁煙の誓約書を求めている。5月以降も滋賀大などが予定する。

 08年に禁煙を実施した岩手大では、04年に12・7%だった学生の喫煙率は17年に2・3%に低下。学外での路上喫煙などの苦情は08年に25件あったが11年に3件になり、近年はほとんどないという。

 ただし改正法は、「人が通らない場所につくる」などの対策をとれば、屋外に喫煙所を設置できる抜け道を認めている。これが大学の選択を複雑にしている。家田さんは「全体的に喫煙率は下がってきている。全面禁煙は大学のイメージ向上につながる。未成年もいる大学で、喫煙所を設置する必要性があるのかを考え直す時期に来ているのではないか」と話す。(黒田壮吉

キャンパスの全面禁煙を決めた主な大学と予定日

・名古屋文理大、奈良大、高知大、佐賀大、沖縄キリスト教学院大(2019年4月)

・滋賀大(同5月末)

和歌山大(同7月)

長崎大(同8月)

・九州大(同9月)

広島大(2020年1月)

※家田重晴・中京大教授の調査から