「いっぺんに禁煙、怖い」都内の飲食店、独自条例に悩み

2019年9月3日12時00分  朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASM8Z6W6VM8ZUTIL03B.html?iref=pc_ss_date

 

 東京都が独自に制定した受動喫煙防止条例が1日に一部施行された。飲食店は「全面禁煙」「喫煙室あり」などと、たばこへの対応を店頭で示すことが、まずは義務化された。来春には改正健康増進法とともに全面施行され、多くの飲食店で喫煙ルールが強化される予定だ。だが客離れへの懸念などから、全面施行時の対応を決めあぐねている店も少なくない。

 8月31日。東京・日本橋の老舗洋食店「レストラン桂」では、店主の手塚清照さん(42)が「NO SMOKING」「11時~14時」と記されたシールを店先に貼り出した。客席は44席あり、従業員もいる。

 10年ほど前からランチ時間のみ禁煙にしたが、ディナー時間は「昔より減ったが、お酒を飲みながら吸う人も3分の1いる」と、喫煙可を続けてきた。

 しかし専用の喫煙室を設ける余裕はなく、来年4月には全面禁煙に踏み切る。「近くにも禁煙の店が増えてきて、うちもいずれはと思っていた。今回の表示を機に、お客さんにも説明していきたい」。全面施行時には、シールの表示を変える必要がある。

 たばこの煙による健康被害を防ごうと、東京都と国は昨年、相次いで制度を定めた。来年4月からは改正健康増進法により、原則として客席面積100平方メートル、資本金5千万円を超える飲食店は、禁煙にするか煙が漏れない喫煙室を設けるか、いずれかの対応が必要だ。さらに都内では条例により、従業員がいれば広さや規模に関係なく、同様の対応が求められる。

 その約半年前のタイミングで、都は店頭表示について先行して義務化した。

 9月20日にラグビー・ワールドカップが開幕し、海外からの観光客が増えることを踏まえ、店の状況を客がひと目で把握できるようにするためだ。都の担当者は「全面施行に向け、店側に今後の対応を考える機会にして欲しいという思いもある」とも話す。

「まだ結論が出せない」

 都によると、都内の飲食店約16万店のうち、8割以上が規制の対象となる見込みだ。ただ、いまだ決めかねている店もある。

 都は先月27日、東京ビッグサイト江東区)で開かれた外食産業の商談展示会で、条例を解説する資料や店頭掲示用のステッカーを配布した。受け取った参加者の中に「うちはまだ結論が出せていない」と話す40代の男性会社員がいた。

 会社が都内で展開する居酒屋は現在、いずれもたばこが吸える。「お酒を飲めばたばこが吸いたくなる。いっぺんに禁煙にするのはやはり怖い」。喫煙室の設置が現実的だと感じているというが、「一部の席をつぶしたり工事期間中に休業したりする必要があるかも」と、社内で慎重に検討しているという。

 都は今年度、18億円の予算を充てて、喫煙室の設置などにかかる費用を最大400万円まで補助する制度を始めた。しかし利用は今のところ低調だという。

 分煙システムを手がける専門会社「トルネックス」(中央区)によると、設置まで至った例はまだ少ないが、飲食店からの問い合わせが相次いでいるという。「客足への影響を考え、『ぎりぎりまでやりたくない』という心理があるのかも」と担当者はみている。

 まちなかには1日以降も、店頭表示を始めていない店もある。小池百合子都知事は先月30日の記者会見で「条例を実効性のあるものにするためには、都民や事業者の協力が重要。引き続き説明会などを通じ、制度の内容や支援策を説明する」と述べた。

 東京都のほか大阪府千葉市でも、飲食店への規制を国よりも厳しくした条例を制定しており、制度の周知に力を入れている。

受動喫煙対策をめぐる動き

2018年

6月 東京都受動喫煙防止条例が成立

7月 改正健康増進法が成立

2019年

7月 行政機関や学校の建物内が完全禁煙

9月 飲食店での「禁煙」「喫煙」表示を義務化(条例のみ)

   幼稚園や小中高校で屋外を含めて全面禁煙(同)

2020年

4月 飲食店の規制も含めて全面施行

     ◇

 〈東京都受動喫煙防止条例〉 多くの人が利用する施設での喫煙を規制するため、2018年6月に成立。改正健康増進法と同じく今年7月に一部施行され、学校や行政機関、病院の建物内の完全禁煙を義務化した。さらに9月から独自に、飲食店での店頭表示を義務づけたほか、保育所や幼稚園、小中高校については屋外も含めて敷地内の全面禁煙を開始。来年4月に全面施行された後は、従業員がいる飲食店は、原則として禁煙とするか喫煙室の設置が必要となり、法律より規制対象が広くなっている。違反すれば罰則もある。

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