喫煙率日本一の群馬、屋内全面禁煙へ「東京の話でしょ」


2020年2月14日 12時51分  朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASN2F7J6JN27UHNB015.html?_requesturl=articles%2FASN2F7J6JN27UHNB015.html&pn=4

 今年4月、改正健康増進法が全面施行される。多くの人が出入りする飲食店やオフィスでは原則的に屋内での喫煙ができなくなり、日本一の喫煙率の群馬県内でも、対策を求められる。ただ、先行して昨年7月に一部施行となった学校や行政機関でも、すんなりとは制度が浸透していない。

 

 群馬県立太田東高校(太田市台之郷町)。昨年10月中旬、敷地内の一角を記者が担当教員と確認すると、数本の吸い殻が入った灰皿とみられる缶があった。消火ポンプ室のある建物の横で、植木や塀に囲まれており外からは見えにくい。

 

 複数の教員が繰り返したばこを吸っていたという。同校は「本当に恥ずかしい。申し訳ない」。ほかに敷地内のマイカー内で吸っていたと答えた教員もいたという。ただ、名乗り出た教員の中に、この缶を用意していたと答えた人はいなかった。喫煙した教員に対し校長が厳重に注意した上で、禁煙を勧めたという。

 

 太田東高に通う生徒の一人は「生徒を指導する立場の教員が法律を無視して喫煙するというのは、指導者として失格だと思う。そんな教員に指導してもらいたくない」と話した。

 

 県教委によると、県立学校では昨年4月から敷地内全面禁煙とする方針を定め、各校に通知した。改正法の一部施行を3カ月前倒しした形だ。改正健康増進法では例外的な「特定屋外喫煙場所」の設置は認めているが、県教委は県立学校には設置しない方針だ。

 太田東高でも県教委の方針にならって昨年4月から敷地内を全面禁煙にしていた。100年前の米国の禁酒法下で横行した闇営業の酒場のような「隠れ喫煙所」は、そのひずみで登場したようだ。

 

 各地の高校では、校門の外でたばこを吸う教員らの姿が目立つようになった。

 

 前橋市内の高校の近くに住む60代女性は「あまり見た目がいいものではないけど……。吸いたい気持ちもあるだろうから、しょうがないかな」と言う。

 

ひそかに生き残っていた屋内喫煙所

 行政機関が多く集まる前橋市大手町。県庁では昨年5月下旬に庁舎内の喫煙所を廃止し、県民駐車場棟の屋上に「特定屋外喫煙場所」を設置した。県警本部では昨年3月に庁舎内の喫煙室を廃止。昨年6月末には電子・加熱式たばこ限定だった屋外の喫煙所も使用禁止になり、敷地内禁煙となった。

 

 県警職員の喫煙者は「外の喫煙所は遠い。日中は我慢できても、朝の本数が増えた」とぼやく。県警本部に詰める記者は「外の喫煙所は風が寒い。迫害されている気分だ」と不機嫌そう。改正健康増進法は受動喫煙防止に一役買っても、喫煙者本人の意識改革までは促しにくいようだ。

 

 そんな中、ひそかに屋内喫煙所が生き残っていた場所がある。県議会棟だ。県によると議会は「行政機関」ではないため、昨年7月の一部施行の対象にならないのだという。暑さ寒さをしのぐ一部の喫煙者に人気があった。

 ただ、その喫煙所もまもなく廃止になる。今年4月からは一般の飲食店や事務所と同様、屋内禁煙になる。屋外に喫煙所を設置する予定だという。

 

 37・3%。厚生労働省の2016年の調査で、県内の成人男性が習慣的に喫煙している割合だ。熊本地震の影響で調査できなかった熊本県を除き、調査した46都道府県の中で最も高かった。全国平均は29・7%。

 

 県保健予防課は「群馬が上位である理由は正直、分からない」と言う。厚労省でも背景の分析はしていないという。「ぐんま受動喫煙防止協議会」の事務局長も務める高崎健康福祉大の東福寺幾夫教授(健康情報システム)は「喫煙しやすい車通勤の人が多いのも理由では」と推測する。

 

 18年成立の改正健康増進法は、望まない受動喫煙の防止を目的として、多数の人が利用する施設では施設の種類に応じて喫煙を禁止する。19年7月の一部施行では学校や病院、行政機関などの敷地内が禁煙に。今年4月からは事務所や工場、ホテルのロビー、飲食店などの屋内での喫煙が原則禁止になる。

 

 とはいえ屋外や、煙の流出防止措置をとった喫煙専用室など、受動喫煙を防ぐ措置を取れば喫煙が可能だ。ホテルや旅館の客室も屋内禁煙の対象外。面積などを条件に、既存の小さな飲食店でも経過措置として喫煙可能にできる。

 

 ただし客としても従業員としても、喫煙スペースに20歳未満は入れなくなる。

 

遠慮の気持ちが生まれてほしい

 ぐんま受動喫煙防止協議会のホームページでは、禁煙の飲食店を公表している。東福寺教授は「今のところ手を上げてくれる店は少ない。客足に響くと思われているようだ」。協議会では店の利用客側から「受動喫煙を望まない」と意思表示しようと、缶バッジを2千個作って配布している。「喫煙者に遠慮の気持ちが生まれてほしい」。改正法の全面施行により、喫煙率の高い群馬でもそんな流れに追い風が吹くのを期待している。

 

 「マナーからルールへ」。6日、富岡市七日市の市生涯学習センターで開かれた県主催の「受動喫煙防止対策説明会」で配られたチラシに、大きく記されている。主な出席者は企業や飲食店の管理者。医師や専門家らが、たばこの害や喫煙室の設置方法などを解説した。

 

 同様の説明会は1月中旬に始まり、2月下旬まで県内12カ所で開かれる。14日以降は高崎、吾妻、前橋、伊勢崎で予定する。県保健予防課の斉藤朋子係長は「すぐ始まるのに周知が行き届いていないのでは、と開催が決まりました」。

 

 昨夏の一部施行以降、改正健康増進法に関する問い合わせがいったん減ったという。「飲食店は消費増税対応で手いっぱいだったようです。年初から問い合わせが殺到しています」。内容は「うちの店は対応が必要か」「喫煙室を設置するにはどうすれば」といったものが多いという。

 

 富岡での説明会に参加した磯寿司(富岡市宇田)の金井敏行さん(66)は、県飲食業生活衛生同業組合の副理事長も務める。「仲間から聞かれることもあるので、説明を聞いておこうと」。今は電子・加熱式たばこのみ屋内可で、4月から屋内全面禁煙にするつもりだという。心配なのはトラブル。「常連さんに話すと『東京の話でしょ』という人もいれば、全く知らない人もいますね。ケンカにならないといいんですが」