受動喫煙の規制逃れ? バーやスナック、例外施設に移行



2020年3月29日 14時30分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASN3Y2JLFN3RUTIL03X.html

 4月に全面施行される受動喫煙防止条例で大半の飲食店が原則禁煙となる東京都で、バーやスナックが喫煙の認められるシガーバーなどと同じ「喫煙目的施設」に移行する動きが広がっている。たばこの出張販売先と認められると、店内で4月以降も喫煙できるためだ。厚生労働省は「法の抜け目をつく行為で、好ましくない」と指摘する。

 東京・歌舞伎町の飲食店街「新宿ゴールデン街」。3月中旬、小さなスナックやバーなど約300軒が密集する路地を歩くと、店頭に「喫煙目的施設」と書かれたシールを貼った店があった。関係者によると、100軒以上が移行準備を進めているという。

 東京都では、4月から全面施行される受動喫煙防止条例で、従業員を雇う飲食店は、喫煙専用室を設ける場合などを除き禁煙となる。都条例は、客席面積100平方メートル以下であれば店内での喫煙を認める国の改正健康増進法(4月施行)よりも厳しく、都内の飲食店の84%(約13万軒)が原則禁煙となるという。

 ただ、都条例にも例外がある。①たばこの小売業者などから出張販売の委託を受け、対面販売をする②米飯・めん類などの「主食」を提供しない③未成年を入れないなどの条件を満たせば、店内で葉巻を吸えるシガーバーなどと同じ「喫煙目的施設」と見なされる。

 例外措置を目当てにバーやスナックがたばこ店から出張販売を受け、衣替えするケースが増えている。

 ゴールデン街の店舗が加盟する新宿三光商店街振興組合の担当者は「主食を出すので喫煙目的施設をあきらめる店もあるが、多くは移行するようだ」と話す。

 

厚労省「好ましくない」

 財務省関東財務局によると、昨年度に都内でたばこの出張販売先として許可された場所は約240件。今年度は3月中旬までに約1200件に達した。担当者は「今までにない特異な状況。条例施行を見据え、いまも申請が相次いでおり、今後も増える見込みだ」と話す。

 こうした動きに対し、厚生労働省の担当者は「規制を逃れるためだけに、飲食店が形式的に移行するのは、好ましい状況ではない」と話している。

 

「たばこと酒、切れない」

 「たばこと酒は切っても切れない関係にある。禁煙という選択肢は難しい」。ゴールデン街で17年営業しているバー「申(さる)」の店長、武石洋佑さん(40)は話す。客の多くは喫煙者だが、カウンターのみの約9平方メートルの客席に喫煙室をつくる余裕はない。

 昨秋、たばこの小売業も行うプロモーション会社の紹介で、飲食店とは別に「喫煙目的施設」という類型があることを知った。店では「主食」をほとんど出さないこともあり、たばこの出張販売先になることを決意。この会社に許可取得の手続きを依頼した。常連客の会社員女性(46)は「いまは、会社でも外でもなかなか吸えない。ゴールデン街が禁煙になるのは想像できなかったので、うれしい」と話した。

 ゴールデン街では2016年に起きた放火事件の後、周辺の私道が路上禁煙になった。都条例の全面施行で店内も禁煙になれば、「客足が落ちるのでは」と不安の声が上がっていたという。武石さんは「禁煙になれば来る頻度が減るという客もいた。この方法しかない」。従業員3人はいずれも喫煙者という。

 都内のバーやスナックなど約2500軒でつくる業界団体「東京都社交飲食業生活衛生同業組合」は、たばこ販売の業界団体と協定を結び、加盟店が出張販売先になるための手続きを支援する。すでに500軒以上が移行に向けて準備中という。同組合の塚口智理事長は「たばこを吸いながらお酒を飲みたいという客は多い。全てが禁煙になったら、社交業は成り立たない」と話す。

 一方、受動喫煙対策に詳しい大和浩・産業医科大教授は「立場の弱い従業員に望まない受動喫煙を強いることになりかねない。非喫煙者が多くなる中、将来的に客から選ばれない店になるのではないか」と指摘する。