受動喫煙防止へ、独自の対策進む 条例で先行、脳卒中抑制 北海道美唄市

 


2020年6月3日 5時00分  朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASN624K9NN5TULBJ01F.html

 

 喫煙者の周りの人がたばこの煙を吸い込む受動喫煙を防ぐため、罰則つきで規制する改正健康増進法が4月に全面施行した。多くの人が使う施設は原則禁煙。屋内で喫煙できる場所は大きく制限される。喫煙室を認めるなど「抜け穴」は多いが、熱心な自治体は独自の条例で対策をさらに進めようと動き出している。今週は5月31日の世界禁煙デーから始まる禁煙週間。

■条例で先行 北海道美唄市

 人口約2万1千人の北海道美唄(びばい)市は4月、学校や公園、児童福祉施設の敷地100メートル以内で受動喫煙させないよう求めた。3月までは子どもが登下校時に使う校門から100メートル以内の路上や公園が対象だったが、条例を改正して広げた。歩行中や自転車走行中も、屋外の公共の場所で喫煙しないよう努めることとした。

 市が条例をつくって受動喫煙対策を始めたのは2016年7月。学校や病院、公共施設は努力義務で原則禁煙とし、事業所や店舗の一部も禁煙や分煙に努めるとした。影響は、飲食店や事務所への調査で見て取れる。受動喫煙を防ぐ対策をしている事業所は昨年の調査で78%。条例施行の前年から30ポイント増えた。

 「条例ができて、受動喫煙という言葉が当たり前のように知られるようになった。健康被害への理解も増し、受動喫煙を不快に感じる市民が増えている」と日本禁煙学会評議員の井門明・市医師会長は話す。「街の中で歩きたばこをする人も見なくなった。街の規模が小さいこともあるが、罰則がないから守らなくていいとは受けとめられていない」

 井門さんは市、旭川医科大の西條泰明教授(公衆衛生学)と、施行前後のそれぞれ2年間で、心臓を動かす筋肉に血液が十分届かなくなる急性心筋梗塞(こうそく)と、脳卒中の発症数を調査。月平均の入院数が、近隣地域と比べて有意に抑えられていることがわかった。

 西條さんは「条例以外で、近隣地域と社会状況に大きな違いはない」と指摘。「条例で住民の意識が高まり、受動喫煙だけでなく喫煙者の数が徐々に減った可能性もある」と話す。

■「抜け穴」に規制上乗せ 東京都千葉市

 16年の厚生労働省の報告書によると、たばこの煙に含まれる化学物質は約5300種類。70種類は発がん性物質とされる。周りの人が吸い込む副流煙には一酸化炭素やアンモニアなどの有害物質も多い。

 吸い込んだ有害物質は動脈硬化を進める。さらに血の塊(血栓)をできやすくさせ、血栓が血管を詰まらせて虚血性心筋梗塞や脳卒中を引き起こす恐れもある。

 受動喫煙対策に詳しい地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センターの中村正和センター長は「血液や循環器呼吸器に対しては煙の曝露(ばくろ)が短時間でも影響が出る」と指摘する。大人では肺がんのリスクを上げ、子どもでは乳幼児突然死症候群やぜんそくの重症化とも関係している。

 厚労省研究班が16年に発表した推計によると、受動喫煙が原因の死者は国内で年約1万5千人。対策の遅れは世界的にも目立ち、18年7月に成立した改正健康増進法で、罰則つき規制がようやく導入された。

 改正法で、学校や病院、行政機関などは昨年7月から敷地内禁煙。その他の多くの人が使う施設も今年4月、屋内禁煙になった。ただ、条件つきで喫煙場所や喫煙室の設置も認める。

 飲食店にはさらに例外があり、経営規模の小さい既存店は、店側が喫煙できるかを選べる。厚労省の推計によると、対象は飲食店全体の5割強。シガーバーやたばこ販売店も店内を喫煙可能にできる。

 こうした「抜け穴」を塞ぐため、規制を上乗せする自治体もある。東京都は4月、国の規制では例外対象の規模の小さな既存飲食店に対し、店主だけでなく従業員がいれば喫煙可能にできなくした。従業員の受動喫煙を防ぐ目的で、都内の飲食店の8割超が原則禁煙となる見通しだという。千葉市でも同様の規制を導入した。

 山形県は、学校や医療機関で屋外に喫煙場所を設けないことを努力義務とし、美術館や駅舎、映画館など公共性の高い施設は喫煙室を置かないよう努めることとした。ともに国の規制では設置が認められている。

 中村さんは「日本は海外と比べても受動喫煙の問題が認識されていない」と指摘する。中村さんの研究グループが18年、喫煙者2千人にアンケートすると、受動喫煙が心筋梗塞(こうそく)、肺がんを誘発するかとの問いに半数ほどが「いいえ」か「わからない」と答えた。「条例をつくるだけでなく、法律と合わせて周知と説明を徹底することで、問題の本質を知り、規制が進むきっかけになる」と期待する。 

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