「議員特権か」 国会自室での違法喫煙、なぜはびこる?
 

2020年10月2日 14時00分  朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASNB17H9JN9SUTIL04M.html

 法律で禁じられているのに、国会議員が議員会館の自室でたばこを吸っていたことが明らかになった。国会や議員会館は、喫煙室も設置できない中央省庁などに比べれば規制は緩いが、それすら守られていなかった。

 9月下旬の平日、記者は国会議事堂に隣接する議員会館を訪れた。議員会館には国会議員一人ひとりに割り当てられた事務所がある。昼過ぎ、各階にある喫煙専用室には国会議員や秘書らの姿があった。ある与党議員に声をかけると、「最近まで自室で吸ってはいけないとは思っていなかった」と話した。「部屋に来る人が多いなか、喫煙室まで来るのが面倒なこともある」のだという。

 4月に全面施行された改正健康増進法では、国会やその一部とされる議員会館は「原則屋内禁煙」(屋内に喫煙専用室設置可)になった。オフィスビルなどと同じ扱いだ。それまでは議員会館の事務室内でも各自の判断で吸えたが、喫煙専用室以外での喫煙は禁じられた。都道府県知事らの指導や命令の対象で、違反者には30万円以下の罰金が科される。

後を絶たない自室喫煙

 衆参両院の広報担当によると、国会内には、議事堂横や議員会館の各階など計83カ所の喫煙所がある。ただ、議員が事務所の自室で喫煙をする例は後を絶たない。

 その一人が立憲民主党枝野幸男代表だった。8月末の記者会見で、議員会館の自室で法施行後もたばこを吸ったことがあるかを問われ、認めた。「制度を厳格に運用することについての認識が甘かった」と釈明したが、「(事務所で喫煙する)議員が多く、制度が徹底されていなかった側面が間違いなくある」とも述べた。関係者によると、煙が少ないとして加熱式たばこを吸う議員も多いという。

 だが、議員会館に常駐する秘書のほか、法案説明などで頻繁に訪れる省庁の職員や陳情者は、他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙の恐れがある。喫煙している議員の秘書の30代女性は「法律が施行されたらやめると思っていたのに。苦痛で仕方がない」

 受動喫煙は命に直結する問題だ。受動喫煙による国内の推計死者数は、年間約15千人。受動喫煙がある人はない人に比べ、肺がん脳卒中になる危険性は約13倍とされる。

 政府は東京五輪パラリンピックの開催決定を機に、罰則付きの法改正にかじをきった。ただ、自民党のたばこ議員連盟など規制慎重派の抵抗もあり、成立した改正法は小規模の飲食店で例外的に喫煙を認めるなど、骨抜きが目立つ。

 立法機関である国会も規制が緩くなった対象の一つだ。厚生労働省20173月に公表した改正法の当初案で、国会などは中央省庁や県庁などの行政機関と同様、喫煙専用室も設置できない屋内完全禁煙に分類されていた。だがその後、案から消えた。行政機関は屋内完全禁煙のままとなったが、国会や地方議会は喫煙専用室を設置できる原則屋内禁煙に後退した。

実態調査、申し入れ

 受動喫煙対策などに取り組む超党派の「国際基準のタバコ対策を推進する議員連盟」の幹事長を務める松沢成文参院議員は「法律をつくる議員の違反行為は許されない。議員特権との批判を免れない」と訴える。同議連は99日、衆参両院の議長に実態調査や国会などの屋内完全禁煙を申し入れた。

 最高裁判所によると、国会と同じく原則屋内禁煙に分類される全国の裁判所は、自主的に敷地内を全面禁煙とした。松沢氏は「そもそも国会や議員会館を分煙にしたことが問題だが、自主的に禁煙にできなくては、自分たちに甘いと言われても仕方がない」。

 たばこ対策に詳しい大和浩・産業医科大教授の調査では、204月現在、全国の都道府県議会で屋内完全禁煙としているのは26都府県だった。大和教授は「喫煙専用室からは煙の漏れが発生し、完全に受動喫煙は防げない。議員に喫煙者が多いことが一つの要因だと思われるが、本来であれば、議会は敷地内を全面禁煙とし、受動喫煙対策の模範を示すべき場所のはずだ」と話す。

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