ネットでも規制対象のたばこ広告 加熱式なら流せる理由

2021年6月3日 14時00分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASP6276QYP5DULEI001.html



 世界的なたばこの広告規制の流れを受けて、テレビから姿を消したたばこのCM。ネット上でも業界団体の自主基準により実質的に難しくなったが、最近は加熱式たばこの広告が配信されるように。問題はないのか。

 「吸いたいときすぐ吸える」「1口でも2口でも」

 軽快な音楽に合わせ、仕事やゲーム、入浴中など様々なシーンで加熱式たばこを勧めるアニメが展開される。最後には商品の映像と名前。民放キー局5社とその系列局が連携するネットテレビ「TVer」で流されているCMだ。

 こうした加熱式たばこの広告は、日本たばこ協会の自主基準で、テレビやラジオでは流せない。自主基準は、未成年の目に広告を触れさせないことなどが目的で、視聴者が成人かどうかの選別が技術的に難しいことが主な理由だ。

 ネット上でも、たばこの場合は、利用者が広告を見ようとするたびに公的な証明書か「taspo(タスポ)」で年齢確認するよう定められているため、実質的に広告を流すのは難しい。一方、加熱式たばこに関しては別の基準があり、証明書は不要で、本人の自己申告で成人と確認されればよいとされているのだ。

 なぜ基準が違うのか。日本たばこ協会の担当者によると、たばこ事業法では、加熱式たばこのスティックやカプセルは「たばこ」、加熱する専用のデバイス(機器)部分はパイプやキセルなどと同様に「喫煙具」にあたることから、「喫煙具」とみなして別の基準にしているという。

 国内では、フィリップ・モリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、日本たばこ産業(JT)の3社が主に加熱式たばこを販売し、ネット広告も出している。「煙やにおいが気にならない」という理由で紙巻きたばこから切り替える喫煙者も多く、20年の市場占有率は26%だった。

 

媒体で分かれる判断

 ネット広告事業者の業界団体・一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の担当者は「法的な問題点がなく、業界団体の自主基準にのっとっているのであれば、協会として問題はない」とする。ただ協会内の会議でも、「たばことデバイスを分ける意味があるのか」という疑問の声があったという。

 媒体の判断は分かれる。グーグルは、加熱式たばこはデバイス部分も含め広告を認めていない。一方、ヤフーはたばこ部分、デバイス部分ともに可能だ。「自主基準に違反するものではなく、問題ないと考えている」と広報担当者。

 同じく広告を流している「TVer」は、取材に対し「個別の広告の考査に関してはお答えしかねます」と回答した。同社によると、広告の考査はテレビ各局がしているという。

 テレビ局が加盟する日本民間放送連盟は取材に、「たばこやアルコールなどの広告については、広告主の基準に委ねている。TVerは加盟各社とは別会社で、広告基準について回答する立場にない」と回答した。ある民放幹部は「テレビ広告がなかなか取れなくなる中、急成長するネットに活路を求めざるを得ないのが実情。通信事業では放送法のような規制はなく、広告主側の基準に委ねざるを得ない」と明かす。

 専門家からは疑問の声も。大阪国際がんセンターの田淵貴大(たかひろ)・がん対策センター疫学統計部部長補佐は「加熱式たばこのデバイスだけを区別する意味はないのでは。そもそも、広告規制は喫煙による健康被害を防ぐことが目的で、未成年の目に広告を触れさせないだけでは不十分。加熱式たばこという新しい製品が出回るようになった環境の変化を踏まえた見直しが必要」と指摘する。

 一方、たばこの広告規制に詳しい中央大法学部の橋本基弘教授(憲法学)は、たばこ部分とデバイス部分を分ける現在の自主基準について「技巧的で不自然」としつつ、規制強化には慎重な立場だ。「成人による喫煙行為は適法な行為で、喫煙の判断はまず個人に委ねられるのが前提。情報規制の範囲や程度は必要最小限度にとどめられるべきだ」と指摘。「国が政府広報を通じてたばこの健康被害についての情報を流すなど、言論活動を通じて啓発するのが望ましいのではないか」と話した。

 

たばこの広告規制

世界保健機関(WHO)が2003年、「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」を採択し、日本も批准。日本では国が禁止するのではなく、財務省が04年に発表した指針に基づき、事業者らで作る日本たばこ協会が自主基準を設けた。たばこに関しては、テレビやラジオでは、喫煙マナー向上や企業活動の宣伝以外はできず、新聞や雑誌などの出版物への広告掲載も、閲読者が9割以上が成人であることなどが条件だ。加熱式たばこについては、19年に基準が追加された。