五輪を前に受動喫煙対策を強化した安倍内閣 世論はその必要性に……
2023年12月25日 5時00分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASRDC3HWXRD6UZPS001.html
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たばこの煙が漂うなかでの忘年会や新年会。かつて、年末年始のかき入れ時の飲食店ではこんな光景がよく見られました。それが昨今のように、屋内の原則禁煙や分煙のかたちに変わったのは、受動喫煙対策を強化する改正健康増進法(2018年7月成立、20年4月全面施行)が安倍晋三内閣のもとで整ってからでした。
法整備のきっかけは、東京五輪・パラリンピックに向けた環境作りでした。17年1月、安倍首相は施政方針演説で「20年開催」が決まっていた東京五輪に向けた取り組みの一つとして、受動喫煙対策の徹底を明示しました。
すでに10年には、国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)が「たばこのない五輪」の推進で合意。屋内の全面禁煙化が世界的な潮流となっていましたが、日本では罰則がない努力義務にとどまっていました。WHOは日本の受動喫煙対策を「世界最低レベル」と指摘していました。
法改正する場合、関係する業界は飲食にとどまらず、ホテル、医療など多岐にわたります。各種団体から賛否さまざまな意見が出ました。
政府が検討する受動喫煙対策の強化案が17年2月に明らかになると、与野党を問わず、論争に発展します。自民党内では対策強化を求める議員と分煙派の議員が激しく対立しました。
例えば、法案の事前審査を行う党部会では「日本から受動喫煙を一掃するくらいの決意でやってもらいたい」との声が上がれば、党内きっての愛煙家で知られる議員が「分煙社会を洗練、成熟させるのが正しい方向」と主張する場面もありました。当時の野党第1党・民進党でも賛否さまざまな意見がありました。
翌3月に厚生労働省は罰則付きの改正案の骨子を発表します。焦点の飲食店については、条件を満たす場合は喫煙を認める一方、そうでない場合は原則禁煙としました。
直後の3月調査(電話)で、この改正案について尋ねると、「賛成」が64%、「反対」が25%でした。世論の大方は、対策強化の必要性に賛意を示していたことが分かります。
ただ、自民党内の議論は着地せず、政府は改正案の国会提出を先送りします。その後の6月調査(電話)で、この先送りについて聞くと、「よくなかった」が45%、「よかった」が36%という結果でした。
結局、改正法が成立したのは1年後の18年7月のことでした。
同時期に、五輪開催都市の東京都は受動喫煙対策の強化に向けた条例整備に取りかかっていました。飲食店の従業員の有無を基準に喫煙の可否を線引きするという独自案で、国に先行すること1カ月、18年6月に条例が成立しました。国より厳しい受動喫煙対策でした。
翌7月に行った、都民を対象とした調査(電話)ではこの条例ができたことについて、「よかった」が77%と圧倒し、「よくなかった」が20%でした。
条例施行直前の20年3月に、同じく都民を対象にした調査(電話)を行っていて、条例を「評価する」と答えた人は73%に上り、「評価しない」は22%でした。