原則禁煙から4年、たばこが吸える居酒屋の謎 「法は建て付けだけ」

2024年6月1日 14時00分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASS5034B4S50OXIE00MM.html



 法律や条例が改正され、飲食店などが「原則禁煙」になって一部の愛煙家が戦々恐々としてから4年。だが、いまだ各地の繁華街には、店内で自由にたばこを吸える飲食店があちこちにある。一体、なぜなのか。

 「店内喫煙OK」

 東京都内を中心に居酒屋など約20店舗を経営する男性(43)はここ数年、多くの店の看板にこんな紙を貼っている。

 焼き鳥や水炊きなどを提供する店舗では、店内すべての60席で飲食しながら喫煙ができる。大手居酒屋チェーンが禁煙や分煙にかじを切ったことで、喫煙できることが店の売りの一つになったと感じている。

 改正健康増進法が2020年4月に全面施行され、学校や病院などの第一種施設は、屋内が完全禁煙になり、飲食店などの第二種施設では屋内が原則禁煙となった。都内では、さらに厳しい受動喫煙防止条例も全面施行された。

 たばこを吸わない人が意図せずに煙を吸ってしまうことを防ごうという狙いがある。

 改正法施行前から営業していた客席100平方メートル以下の小規模店が届け出ると、喫煙可能な店として営業できる。ただ、同条例がある都内では、従業員がいない場合などに限られるなど、あくまで例外的な位置づけだった。

 男性が経営する飲食店の場合、従業員を雇い、客席も広い。なぜ、店内でたばこが吸えるとうたえるのか。

「原則禁煙」でも吸える理由は?

 根拠になっているのが、同法に基づく「喫煙目的施設」という定義だ。厚生労働省によると、たばこの対面販売をしており、喫煙場所の提供を主な目的として飲食営業をする施設で、バーやスナックを念頭に置く。行政側に届け出る必要はない。

 ただ、飲食営業については、米飯類やパン類などの「通常主食と認められる食事を主として提供するものを除く」とのただし書きがある。

 男性の店も喫煙目的施設として営業しているが、メニューには雑炊などの米飯類もある。たばこの出張販売許可を得たが、在庫は一つも置いていない。

 それでも、東京都側から厳しく指導されたこともないという。「法律は、あくまで建て付けだけのように感じる。飲食店側も『それなりの対応』をしている」

 利用者らが編集するグルメサイト「食べログ」を運営するカカクコムによると、都内の飲食店のうち、5月時点で「喫煙可」と掲載しているのは2万9528軒あり、全体の22%にあたる。ただし、店内に飲食ができない喫煙専用スペースを設けている店なども含まれる可能性があるという。

 都健康推進課によると、法律に適合した多くの飲食店がある一方、本来とは異なる趣旨で喫煙目的施設として営業する居酒屋が一定数あることは、苦情などを通じて把握しているという。

 担当者は、健康増進法のあいまいさを挙げて「『違反』とする基準がなく、明確な指導ができない」と話す。

 国の施策や予算に対する24年度の「提案要求」で、「喫煙目的施設の定義や要件を明確化」を掲げ、厚労省に対応を求めているという。

 厚労省健康課の担当者も「居酒屋は居酒屋。受動喫煙を防ぐ法律の目的に照らすと、喫煙目的施設としての運営は望ましくない」という。

 ただ、要件を細かく規定すると、飲食店側が読み込んで抜け道をつくる懸念もあると説明し、「都道府県で適切に対応してほしい」とも話した。

 同法では、喫煙目的施設が要件を満たしていない場合、都道府県知事は管理者に供用停止の勧告などができると規定。従わない場合などに、50万円以下の過料を科すことができる。ただ、都によると、昨年末までに勧告した例はないという。

 全国のバーや居酒屋など約1万店舗が加盟しているという、小規模飲食店環境整備協会(東京都港区)の担当者は、現在の法令が厳しすぎて実態に即しておらず、建前と現実の乖離(かいり)が大きくなっていると感じている。例えば、飲食店内の禁煙化で、店外の不適切な場所で喫煙する客もいるという。

 法令の内容があいまいなために、自治体によってその解釈や運用が異なっている現状もあるという。居酒屋などでの喫煙者率は少なくとも3割程度あるとみているといい「法令順守は重要だが、喫煙場所としての飲食店はあってしかるべきだ」と話す。