認知症「45%予防可能」、14のリスク取り除けば 英医学誌専門委

2024年11月20日 7時30分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASSCM1FVTSCMUTFL00PM.html



 難聴や喫煙、社会的孤立など14項目のリスク要因を取り除くことで、認知症になる人の45%は予防できるとする報告書を英医学誌ランセットの専門家委員会が今年夏に公表した。認知症予防について、委員会の専門家は「行動を起こすのに、早すぎることも遅すぎることもない」と強調する。

 委員会は、英米など各国の精神医学や老年医学、社会環境医学分野の専門家27人。7月のアルツハイマー病協会国際会議で報告書を発表した。

 これまでに発表された各国の疫学研究などの成果を網羅的に検証し、教育の不足や糖尿病、高血圧など14項目を認知症のリスク要因に挙げた。

 2020年の報告書では、このうち12項目が挙げられており、今回は「悪玉」とされるLDLコレステロールの高さと、未治療の白内障などによる視力低下が加わった。

難聴や高コレステロール、視力低下も要因

 中年期の高LDLコレステロールは、英国の三つの大規模な追跡調査などから「危険因子であるという一貫性のある証拠がある」とし、7%の認知症の要因と推計した。過剰な脳のコレステロールが、アルツハイマー病の原因とされる物質の蓄積や脳卒中と関連しているとみている。

 一方、未治療による視力低下は要因の2%と推計した。米国の約3千人の高齢者を対象とした20年以上の追跡調査では、白内障手術を受けた人が、受けなかった人に比べて認知症の発症リスクが有意に低下していたという。

 ほかの項目も、20年以降に発表された最新の研究成果を採り入れ、ライフステージに応じた予防策も提言した。

 子どものころからの教育機会の確保は、将来の経済状況の改善につながり、医療へのアクセスや健康意識が向上すると分析した。

 また、中年期以降では難聴について「補聴器がリスクを軽減するとの証拠は一貫している」と強調する。

 スポーツや交通事故、転倒などによる外傷性脳損傷は認知症の発症を2~3年早める可能性があり、ラグビーやサッカーなどのスポーツ時の頭部のけがを防ぐ保護具の着用や適切なルールの設定を求めた。

 認知症は、老化とともに脳の神経細胞が死んでいく「変性性」と、脳梗塞(こうそく)や脳出血で神経細胞が死ぬ「血管性」の2種類に分けられる。変性性にはアルツハイマー型やレビー小体型などがある。

リスク減へ「すべきことたくさんある」

 日本の認知症の高齢者は22年に443万人。それが40年には584万人に増え、65歳以上の人口の15%を占めるとみられている。

 世界全体でも、50年までに1億5千万人を超え、19年の5700万人から大幅に増えると予測されている。

 ただ、一部の先進国など社会経済的に恵まれた地域では、年齢ごとの発症率が過去20年間で減少。リスク要因の減少による影響が示唆され、認知症が予防可能であることを示しているという。

 報告書の筆頭著者である英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのギル・リビングストン教授は「報告書は、認知症のリスクを減らすためにできること、すべきことがもっとたくさんあることを明らかにしている。行動を起こすのに早すぎることも遅すぎることもなく、人生のどの段階でも影響を与える機会がある」とし、「健康的なライフスタイルは、認知症のリスクを低下させるだけでなく、認知症の発症を遅らせる可能性もある。これは、個人の生活の質に大きな影響を与え、社会にとってもコスト削減のメリットをもたらす」と指摘する。

「久山町研究」でも同様の報告

 日本国内でも、認知症のリスク要因を探る疫学研究の成果が相次いで報告されている。

 その一つが世界的に知られる「久山町研究」だ。九州大のグループが、福岡県久山町の地域住民を対象に、60年以上にわたって生活習慣病についての健康診断と追跡調査を続けている。

 久山町研究で、60歳以上の1017人を15年間追跡した調査によると、糖尿病と診断された人は、診断されていない人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが2.1倍高いことが明らかになった。

 また、喫煙習慣や歯の喪失、孤独感が認知症の発症リスクを高め、高血圧で血管性認知症の発症リスクが上昇していることもわかった。一方、週1回以上の運動習慣や多様性のある食事を取る人は発症リスクが低かった。

 久山町研究の主任研究者で九州大大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授は「日本の疫学研究でも海外と同様のリスク要因が裏付けられている。リスク因子の集積を防ぎ、脳へのダメージを少しでも減らしていくことが予防につながる」と話す。

 同町では研究を通じて血圧管理や食生活、運動習慣といった生活習慣改善への意識が住民にも浸透した。1985年に6.7%だった認知症の有病率は、2012年に17.9%に上昇したが、17年は15.6%とさらなる上昇が止まっている。二宮教授は「改善の効果は認知症予防に限らない。とくに中年期から健康的な生活習慣を心がけて欲しい」と話している。

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