2018.09.22 Sat Bizコンパス https://www.bizcompass.jp/original/re-trend-105-8.html?m=link_rss
2018年7月18日、受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が成立しました。これにより、レストランや商業施設に限らず、オフィスも規制の対象となります。
たばこと人間の付き合い方は、従来と何がどのように変わるのでしょうか。法改正のポイントを読み解きます。
オリンピックはたばこが嫌い
そもそもこのタイミングで法改正が行われた背景には、2020年の東京オリンピックの存在があります。
IOC(国際オリンピック委員会)は、1988年のカルガリー大会以降、オリンピックでの全面禁煙化を宣言しています。オリンピック会場とその周辺は原則禁煙。スポンサーとしてたばこ産業が付くことも全面的に拒否しています。
今回の東京オリンピックの会場は、都内近郊の各県に及びます。たばこのないオリンピックを実現するためには、東京都の条例を制定するだけでは不十分です。そこで今回、全都道府県を対象とした法律改正が行われた、というわけです。
法改正でオフィスの喫煙環境はどう変わる?
今回の法改正を受けて、特に「オフィス」でのたばこの扱いが大きく変わります。ポイントは3点あります。
第1に、オフィスの室内は、全面的に禁煙としなければいけません。建物の中に喫煙室を設置する場合は、20歳未満の従業員を立入禁止にすることと、喫煙室の外に標識を掲示するという2つのルールが求められます。
第2に、従業員の募集を行う際には、会社がどのような受動喫煙対策を講じているかについて、明示しなければいけません。たとえば求人の際には、オフィスでの喫煙を認めているかどうか、オフィス内に喫煙所や喫煙室があるか等について、事前に求人票に記載しておく、といったような対策が求められます。
第3に、今回の法改正で初めて罰則が設けられました。禁煙エリアで喫煙した人には、行政罰として金30万円以下の過料が科されます。喫煙した本人だけでなく、禁煙エリアに灰皿等を設置した施設管理者にも、金50万円以下の過料が科されます。
このような罰則が加わる一方で、オフィスに喫煙所や喫煙室を設置する場合には、助成金が支給されます。厚生労働省では、喫煙室を設置する経費の50%(上限100万円)を補助する方針です。
レンタカーもファミレスも全面禁煙に
今回の改正法は、東京オリンピックが開催される2020年までに段階的に施行される予定です。しかし、一部の企業は既に動き出しています。
ニッポンレンタカーサービスは、2018年11月から乗用車・ワゴン車レンタカーを全車禁煙化します。全車禁煙化は、レンタカー業界で初の試みです。車内での喫煙が発覚した場合には、休業補償料(2万円)を徴収する方針です。
大手飲食チェーンであるモスバーガー、サイゼリヤ、ココスでは、これまでにも店内の一画に喫煙スペースを設けて分煙化に取り組んでいました。しかし今回の法改正を受けて、国内全店舗の喫煙スペースを廃止することを発表しています。「分煙」から一歩進んだ「全面禁煙化」に向けて取り組んでいます。
アメリカでは喫煙者は出世しない
法改正によって、喫煙者にとってはより厳しい環境になったかもしれません。ですが、海外と比べれば、むしろこれでもまだ甘いくらいです。
たとえばイギリスでは、バーやカジノといった大人の歓楽施設であっても、全面禁煙が義務付けられています。当然のことながら、オフィスや官公庁、駅や空港、国際会議場やスタジアムなどの公共施設で喫煙できません。
世界で最も喫煙者に厳しいのはアメリカです。アメリカでは公共空間は基本的に完全禁煙。筆者が在住するテキサス州でも、レストランやバー、駅や公園、図書館や美術館が全面禁煙とされています。オフィス街では、喫煙所や禁煙ルームを目にすることすらありません。スーツ姿でたばこを吸っているビジネスマンを見かけたこともありません。
アメリカでは、喫煙者に対するイメージも悪く、“自己管理能力が欠落している”と考えられています。ワシントン・ポスト紙の記事によれば、上流階級にいくほど非喫煙者が多く、貧困階級ほど喫煙者が多いといいます。
イメージが重要となる政治の世界では、喫煙はさらにシビアな問題となります。オバマ元大統領は、大統領になる以前は愛煙家として知られていました。メディアから「我々は喫煙者を大統領に選んでよいのか?」「彼は禁煙ができないほど自己管理ができない人物だ」と攻撃されました。喫煙本数は1日わずか数本にも関わらずです。
このため、オバマ元大統領は、大統領選が本格化する前にまず禁煙表明の演説を行い、ネガティブなイメージを打ち破ったうえで、その後に当選を勝ち取りました。
マイナスイメージを煙に巻くチャンス
日本では、喫煙のイメージはマイナスばかりではなく、「喫煙室でのコミュニケーションがビジネスを円滑にする」といった声もあります。しかし、海外ではそもそも喫煙すること自体がネガティブに捉えられることが多く、海外のメディアからは「日本はSmoking Paradise(喫煙天国)である」と揶揄されることもあります。
今回の法改正に合わせたオフィス改革には、一時的なコストがかかります。しかし、グローバルな視点で考えると、決してマイナスばかりではありません。オフィスの分煙化を進めることは、国際的な企業イメージの改善にもつながるかもしれません。
海外からのネガティブな印象を“煙に巻く”チャンスとして、今回の法改正をグローバルなビジネス戦略のひとつと捉えてみてはいかがでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年9月5日)のものです。