2017/6/15(木) 17:00配信 文春オンライン https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170615-00002857-bunshun-pol
(前略)
仮に今後、森友の乱同様に前次官の乱を鎮圧できたとしても、その先には乗り越えなければならないハードルがもう1つある。7月2日投開票の東京都議選だ。都知事の小池百合子率いる都民ファーストの会は一時の勢いを失っているとはいえ、敵対する自民党都連が回復しているわけではない。そんな中で第1党、さらには過半数を狙う小池が5月10日、新たな一手を打った。
「分煙では不十分で、屋内禁煙を原則としていく。基本的には、厚生労働省の案に近い」
2020年東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙対策に関して厚労相・塩崎恭久と自民党反対派の攻防が続く最中、そのギャップに目を付けた発言だった。さらに小池は25日、公約に掲げた受動喫煙防止対策の詳細を発表。「子どもをたばこの煙から守る」と宣言し、家庭内や公園、子供が同乗する車中まで喫煙を制限し、罰則も検討するという。小池は「国の法整備を見守っていても時間が過ぎていくばかり」と国をあてこすった。
背景には複雑な構図がある。小池と塩崎は第1次安倍政権時、当時の守屋武昌防衛事務次官の後継人事を巡って鋭く対立した。首相だった安倍と官房長官だった塩崎の了解を得ないまま、防衛相だった小池が独断で守屋の交代と後継を固めてメディアにリークしたことが引き金だった。以来「犬猿の仲」の2人だが、受動喫煙対策では「敵の敵は味方」の図式となった。というのも、塩崎が4月、世界保健機構のアサモア・バー事務局次長から屋内禁煙の徹底を求める書簡を受け取った際、このコピーを小池に送付したからだ。自民党内で屋内禁煙に反対論が根強い状況を踏まえ、開催地トップの小池から狼煙を上げてもらう暗黙の期待が込められていた。それは小池にとっても渡りに船だったに違いない。自民党反対派と同じく、たばこ販売店や飲食業界の要望を背にして屋内禁煙に否定的な自民党都連との対立構図を演出することは「小池劇場」作りにもってこいだからだ。「国際的に日本が恥をかくようなことは避けたいよね」。安倍は受動喫煙対策を巡り、周辺にこう漏らした。塩崎の立場に理解を示す発言だが、積極的に介入する動きは見せなかった。国際標準で見れば塩崎は正論かもしれないが、自民党の支持母体にも配慮する必要がある。ただその片言隻句を捉えられれば、小池との対立軸を浮かび上がらせかねないと警戒したのだ。
結局、官邸と幹事長・二階俊博ら自民党執行部は都連会長の下村博文に「都議選対策を最優先して」対応するよう内々に指示せざるを得なかった。
都連は「原則屋内全面禁煙とする都独自の受動喫煙防止条例を制定する」との公約を発表。罰則規定も設けるという内容は、事実上、小池と足並みをそろえる格好で、いわば争点潰しだ。背後には健康と経済を巡る政策論議を後回しにし、選挙だけを見て動かざるを得ないほど追い詰められている自民党都連の惨状と、安倍政権の脆弱さが見え隠れする。
さらに小池側は29日、新たな矢を放った。加計学園問題への政府の対応を批判して盟友の衆院議員・若狭勝が党本部に進退伺を提出。若狭は都民ファーストを応援する方針で、新たな争点作りを狙った作戦だった。
安倍が理想を棚上げしてまで目指す9条改正にたどり着くことができるか否か、予断を許さない。