●禁煙失敗の原因を突き止め、それを解決する治療アプリ登場
2019/1/23(水) 6:40配信 ビジネス+IT https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190123-00035881-biz_plus-bus_all&p=2 


 2017年10月、医療ベンチャー・キュア・アップが「ニコチン依存症治療アプリ(禁煙治療アプリ)」の治験の開始を発表した。

 同社のニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」はすでに治験を完了し、2019年上期に承認申請し、年内に治療アプリの薬事承認第1号、保険適用第1号になる見通しだ。CEOで医師の佐竹晃太氏、最高開発責任者で医師の鈴木晋氏の出身校、慶應義塾大学(医学部)病院の呼吸器内科との共同開発で開発された。同病院を中心とした臨床試験、治験と3回の試験を実施している。

 「CureApp禁煙」開発の経緯はこうだ。慶應義塾大学病院の呼吸器内科は2007年に「禁煙外来」を開設し、年間60人前後の患者が、保険診療で3ヵ月で5回という頻度で受診している。2008年の全国平均の禁煙外来成功率(卒煙率/1ヵ月以上禁煙できた比率)は27.9%だったが、同病院では2010年、その約2倍の55.6%という卒煙率を記録。その後も改善し、2015年に71.9%、2016年に65.8%の患者が禁煙に成功している。


 しかし、2016年の卒煙率は65.8%、そのうち5回目まで予約・受診した患者は78.5%だったが、禁煙外来に5回目まで通院できた患者は35.5%しかいなかった。

 約3分の2の患者が途中で来なくなるのはたばこが吸えない離脱症状の苦しさもさることながら、来院と来院の間の対応にも問題があるとされた。そこで、それを解決する有力な手段として治療アプリに目をつけたというわけだ。

 キュア・アップCEOの佐竹 晃太氏はビジネス+ITの独自取材に対してこう話す。

「これまでの医療は、医薬品とハードウェア医療機器の2つのアプローチが常識でした。しかし、診察時間以外の時間帯や在宅での治療介入が重要となるような疾患において、従来の治療法では有効な手だてがないという現状がありました。

キュア・アップの治療アプリは、各専門医の暗黙知をソフトウェアに落とし込むという独自の技術を用います。すでに複数の臨床試験でエビデンスが示されており、現在施行中の治験でもその有効性が証明されることを目指します。『行動変容』という既存の医薬品や医療機器とはまったく異なったアプローチで治療をする治療アプリは、臨床現場の医師にとって大きな力となると思っています」

 キュア・アップは非アルコール性脂肪肝炎NASH治療アプリ(東大と共同)、高血圧治療アプリ(自治医大と共同)の開発も公表している(なお、東大も糖尿病管理アプリの研究開発を進めている)。

●500万人以上が「たばこをやめたい」

 日本の喫煙者は推計1880万人(2018年/日本たばこ産業「全国たばこ喫煙者率調査」)で、これに「たばこをやめたい」と思っている人の割合27.7%(厚生労働省「2016年国民健康・栄養調査」)を掛けると520万人になる。禁煙外来のようなニコチン依存症治療は、「現代日本の国民病」といわれる糖尿病(疑われる成人の推計1000万人超/厚生労働省「2016年国民健康・栄養調査」)にまさるとも劣らない、大型のマーケットである。

 世界保健機関(WHO)はたばこの使用を、不健康な食事、身体活動不足、アルコールの有害使用とともに生活習慣病の危険因子に挙げている。たばこと因果関係がある喫煙者医療費は1兆2600億円(2015年度/厚生労働省研究班)と推計される。

 厚生労働省健康局健康課が2018年5月に発表した「禁煙支援マニュアル(第二版)増補改訂版」では、40歳以上の特定健診(対象2510万人)で禁煙治療受診を促すことで、その後の15年目までの累積の医療費削減額は504.8億円、保健指導費削減額は171.5億円に達し、禁煙治療費の244.2億円を差し引いた収支は432億円の黒字になる試算結果が紹介されている。「禁煙」は中・長期的な国民医療費削減という観点でも、厚生行政の重要な課題になっている。

 ニコチン依存症の治療アプリは、マーケットのスケール自体が大きいだけでなく、禁煙外来受診の補助など行政の支援も期待できる。そんな追い風を受けながら治療アプリ第1号が医学的だけでなく商業的にも成功を収めれば、スタートアップ企業や製薬・ITの大手でプロジェクトが次々と立ち上がるだろう。そうすれば資本市場からの新たな投資を呼び込み、優れた人材も集まるだろう。

 佐竹氏は、今後を見据えて次のように語った。

「弊社は『アプリで治療する未来を創造する』をビジョンとして掲げていますが、かなり近い未来に、“医師が臨床の現場でアプリ処方する”ことが一般的になると思います。治療アプリは従来治療が難しかった疾患への新たな治療戦略を創出するだけではなく、現在日本の大きな社会課題となっている医療費増大の問題などにも寄与するような、大きなイノベーションとなっていくと確信しています」