2023年1月27日 海外がん医療情報レファレンス https://www.cancerit.jp/73958.html
貧しい環境に置かれた人ほどがんになりやすいことは知られている。英国では最も裕福な人々とそれ以外の人々との間の「がんにおける不平等格差」を解消するためには禁煙が最も大きな効果をもたらすことが英国キャンサーリサーチUKの新たな分析により明らかになった。
本日PLOS ONE誌に発表された最新の知見によると、もし誰も喫煙しなければ、英国での貧困関連のがんの症例が61%減少していた可能性があることが示唆された。客観的にみると、年間の貧困関連の症例数が約27,200件から約16,500件に減少することになる。
英国では、喫煙は最富裕層と最貧困層との間の平均寿命の差を生む単独かつ最大の要因であることがこれまでの研究により示されている。これは、貧困層の方が喫煙率が高く、その低下が遅いためである。
キャンサーリサーチUKは、数多のがんを予防し、命を救い、がんにおける不平等格差の解消を促進するために、適時の行動を執るよう政府に要請している。
‘「喫煙はがんの最大の原因です。しかし、すべての人が喫煙の重荷を等しく自覚しているわけではないことが今日の調査結果からよくわかりました。われわれはこのことに何年もの間警鐘を鳴らし続けてきましたが、今こそ政府は緊急に行動を起こす必要があります」英国キャンサーリサーチUK 最高責任者 Michelle Mitchell ’
喫煙とがんにおける不平等格差
喫煙が課す重荷は、すべての人が等しく自覚しているわけではない。
人がたばこを吸う理由はたくさんある。不健康で費用がかかるからたばこを避けようというような簡単な問題ではない。たばこを試そうとする傾向が他の人よりも強い人もあり、われわれには制御しきれない要因が状況を一変させてしまう場合も多い。多くの人々にとって、最初の一服が長く続く中毒への道を開くことになってしまう。
英国では、定型的で肉体労働を伴う職に就いている人々は、管理職や専門職に就いている人々と比較して喫煙傾向が2.5倍となり、貧困度が増すほど禁煙が困難になるとされている。
「貧困度が増すほど、喫煙の可能性が高くなり、喫煙の開始年齢が若くなる傾向があるため、禁煙が難しくなる場合が多いことをわれわれは知っています」とオックスフォード大学、エビデンスに基づく医療部門のJamie Hartmann-Boyce准教授は述べている。
長年にわたるたばこへの曝露、たばこ産業による特定集団の標的化の結果、われわれはここにたどり着きました。人々に禁煙を勧めるだけで済むほど簡単な問題ではありません。禁煙にはサポートと適切な手段が必要であり、特に貧困地域に投資して、本調査で浮き彫りになった容認できない健康格差に取り組む必要があります」
意図された通りに使用すれば、たばこは多くのユーザーを死なせる唯一の消費者製品となる。具体的には、喫煙者の3人に2人がたばこが原因で命を落とすことになる。しかし、たばこはできるだけ中毒性が高くなるよう長い時間をかけて作られてきたため、喫煙者の多くが禁煙を望んでいるとしても、それにはサポートが必要である。
キャンサーリサーチUKも、現在の生活費危機の中で喫煙にお金を費やす余裕の最も少ない人々は、喫煙によってさらに経済的苦境に追いやられ続けるという懸念を表明している。一方、たばこ産業は国民の不健康から利益を得ている。
以下の数字は驚異的である。英国だけでも、喫煙が原因の経済損失は年間170億ポンド(約2兆7,200億円*)にのぼり、国全体のたばこ製品からの税収100億ポンド(約1兆6,000億円*)を上回る。したがって、たばこ規制への資金提供により、国民の健康と富の水準を引き上げられるであろう。
『スモークフリー・英国』を目指した呼びかけ
イングランド、スコットランド、ウェールズの各政府は、喫煙者数を減らすために「スモークフリー」(喫煙者は成人人口の5%未満と定義)と呼ばれる目標を掲げた。
キャンサーリサーチUKの推定によると、英国政府は2030年までに英国をスモークフリーにすると公約したが、達成するには7年の遅れをとっている。しかも、最貧層ではこの数字はほぼ2倍となる。
このような警告にもかかわらず、禁煙のための大胆な行動を起こす機会が多く失われ、禁煙サービスに向けられる予算は何度も削減されており、このサービスへのアクセスには国全体で大きなバラツキがみられる。
「何百万人もの命が政府の手中にあります。現在喫煙している人が禁煙し、若い人が喫煙し始めないようにするために、政府は、たばこ産業に費用を負担させるかたちで、すなわちお金の使い方に影響を及ぼすことなく、スモークフリーへの資金提供を実施しなければなりません」とキャンサーリサーチUKの最高責任者であるMichelle Mitchell氏は述べている。
「納税者ではなく、たばこ産業が、国民の健康に与える害の代償を払い、われわれの医療サービスへの支弁を行うときが来たのです。たばこの規制に向けた大胆な行動は、計り知れない重圧の下で崩壊しつつある英国の国民保健サービス(NHS)を救うために大きな効果をもたらすことでしょう」
今こそ行動を起こすとき
キャンサーリサーチUKの考えとして、Javed Khan’s Independent Review of Tobacco control for England(Javed Khanによる英国タバコ規制独立レビュー)が、がんにおける不平等格差を解消し、次世代が生涯にわたって依存症に苦しむことを防ぐためのロードマップを政府に提供する。
同慈善団体は、本年夏の初めに『スモークフリー・英国』キャンペーンに乗り出し、キャンサーリサーチUKの代表60人以上が国会議事堂に向かった。同団体および同キャンペーンの代表は、若者の喫煙を防ぐために、たばこの販売年齢の引上げに関する協議、および禁煙に必要な対策やサービスへの提供資金の増額など、更なる行動を求めている。
誰もがキャンサーリサーチUKの『スモークフリーキャンペーン』を支援することができる。そのためには、今すぐ議員に連絡を取り、喫煙対策、がんの予防、英国政府に行動を起こさせるための圧力の強化に向けた行動を要請するという方法がある。
(*訳注:1ポンドを約160円として換算) 監修:廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)
翻訳担当者八木 佐和子
原文掲載日