他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙は健康に深刻な害を及ぼす。防止対策は急務である。
東京都の小池百合子知事は2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、多数の人が出入りする施設の屋内を原則禁煙にする条例の提案を表明した。
受動喫煙防止対策では、厚生労働省もかねて法改正を目指している。だが飲食店への規制の線引きを巡って自民党と折り合いが付かないまま、先の通常国会への提出は見送られた。
都の動きは有権者に受けのいい政策を次々打ち出す小池知事らしい戦略なのだろうが、国の対策が遅々として進まない中、先んじる姿勢は評価したい。
条例案は、今年3月に厚労省が公表した健康増進法改正案にほぼ沿う内容である。患者のいる医療施設や子どもが過ごす小中高校は、敷地内を全面禁煙とする。焦点となる飲食店については原則禁煙とするが、喫煙専用室の設置は認めるという。
面積が30平方メートル以下のバーやスナックなどは、未成年者を入らせない店で、経営者が従業員を雇っていない、もしくはすべての従業員が同意した場合などに限って喫煙を認める方針だ。違反した喫煙者や施設管理者には勧告や命令を出し、さらに違反すれば過料も科す。従業員を受動喫煙から守る狙いを明確にしたのは歓迎できる。
そもそも世界保健機関(WHO)は、「屋内全面禁煙」を勧告している。そのため、条件付きで喫煙を認める条例案は十分とはいえない。それでも、国に対して大きなプレッシャーにはなるのではないか。
国が提出しようとしている法改正案自体、雲行きが怪しくなっているからだ。厚労省が示した案に声高に反対する自民党はその後、「喫煙」「分煙」を店頭に明示すれば、喫煙を容認するといった対案をまとめている。厚労省案からはかなり後退する内容で、受動喫煙を防ぐという目的からも大きくかけ離れている。都の取り組みが国民全体の意識啓発につながることに期待したい。
共同通信が全国の知事に実施したアンケートでは、回答した45知事のうち、35人が受動喫煙対策を強化する健康増進法の改正を「必要」と考えていた。
自治体レベルではこれまで神奈川、兵庫両県が受動喫煙防止をうたう条例を制定し、広島県もがん対策を進める条例で対策を求めてきた。しかし禁煙の対象施設が限定され、十分ではない。今後各自治体が東京都に倣って具体的対策を講じれば、大きな力になるだろう。
ただ、受動喫煙防止対策は、国全体の問題である。自治体の取り組みが、国レベルでの対策を促す機運になればいい。
一方で、たばこを吸いたい人の自由もある。個人の嗜好(しこう)を国や自治体がどこまで制限するのかとの反論もあろう。だが問題は、吸いたくない人が煙を吸ってしまうことで、被害を受けることである。対策には、規制に加え、煙が漏れないような公共の喫煙室を拡充するなどの手だても必要となる。
厚労省の試算では受動喫煙が原因で年間1万5千人が亡くなっている。煙を吸わないための対策は、国民の健康を守るために不可欠であることを、国は忘れてはならない。本腰を入れて、早急に臨むべきだ。