社説 受動喫煙対策 骨抜きと言うしかない
2017/11/19
他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙を防ぐ対策の「骨抜き」が止まらない。
先日明らかになった厚生労働省の新たな案では、飲食店内は原則禁煙としながら、例外として店舗面積150平方メートル以下は喫煙を認めるという。新規開業や大手チェーンの店舗は例外措置の対象外とするにしても、これで規制といえるだろうか。
例えば東京都内では、店舗面積100平方メートル以下の飲食店だけでも全体の7割以上に及ぶ。つまり、既存の店の大半が「例外」となるのである。例外措置の期限も設けていない。この先、多くの店で受動喫煙の被害が続くことになりかねない。
これまでも厚労省の案は自民党に受け入れられず、「骨抜き」にされてきた。
当初は、店内に専用の喫煙室を置く分煙を認めつつ、全ての飲食店で屋内禁煙を目指していた。だが、30平方メートル以下のバーやスナックなどに限って喫煙を認めると譲歩。さらには、数年間は面積条件を緩和するところまで歩み寄っていた。
今回は喫煙できる店舗面積を一気に、自民党の対案と同じ「150平方メートル以下」に広げた。例外なしの完全禁煙という国際標準とは、懸け離れてしまう信じ難い案である。
厚労省まで、国民の健康をないがしろにするつもりだろうか。厚労省研究班は、受動喫煙が原因で年間約1万5千人が死亡し、約24万人が病気になっていると推計する。深刻な現実から目を背けてはなるまい。
先月、政府が閣議決定した第3期がん対策推進基本計画では「2020年に受動喫煙ゼロ」との記載が見送られている。受動喫煙対策を盛り込む健康増進法改正の見通しが立たないからだ。今回のような「骨抜き」案は、がん予防に背を向けることにもつながるのである。
他にも、自民党たばこ議員連盟を中心とする主張には首をかしげたくなる点がある。
年間で2兆円強のたばこ税が入るとメリットを強調するが、喫煙が原因で余計にかかる医療費も年1・5兆円に上るという推計がある。医療経済研究機構の試算では、病気で働けなくなることなども含めた損失の総額は年4・3兆円。経済でも、喫煙は負の影響が大きい。
世界保健機関(WHO)の研究機関によると、信頼性の高い49の調査の大半で、レストランやバーを禁煙にしても減収はない―との結論が出ている。「禁煙で、小規模の飲食店が廃業に追い込まれかねない」と強調するなら、根拠となるデータを示すのが筋である。
実際、日本国内でも自発的に禁煙にかじを切る飲食店が増えつつある。人手不足の中、アルバイトやパートの従業員が受動喫煙を拒む傾向があるためだ。成人の喫煙率は既に2割を切っており、たばこを吸う客は今後も減ると踏んでいるようだ。
吸う権利を守れ、という意見もあるが、他人からたばこの煙を吸わされない権利が優先することを忘れてはなるまい。
受動喫煙対策を含む改正法案の提出までには、まだ時間がある。厚労省は対策を考え直すべきだ。与党内でもデータに基づいた、建設的な議論を行ってほしい。国民の健康をどうすれば守れるのか。その原点を見失ってはならない。