他人が吸うたばこの煙による健康被害は意外に大きい。受動喫煙で年間約1万5千人が死亡すると推定されている。それを防ぐための法案作りが大詰めを迎えた。
世界保健機関(WHO)は日本も批准して2005年に発効した「たばこ規制枠組み条約」で、屋内禁煙などの受動喫煙防止対策実施を締約国に求めた。飲食店を含む公共の場所全てに屋内全面禁煙を義務付けているのは約50カ国に上る。
日本では03年施行の健康増進法で受動喫煙防止が自主的な努力義務にとどまり、飲食店などの禁煙が遅れた。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、過去1カ月に受動喫煙に遭った人の割合は飲食店が41%と最も高い。WHOは日本の対策が「世界最低レベル」としている。
20年の東京五輪・パラリンピックを控え、受動喫煙防止は待ったなしの課題である。国際オリンピック委員会(IOC)とWHOは10年に「たばこのない五輪」で合意した。それ以降の五輪開催国は罰則を伴う法規制で屋内全面禁煙を実現してきた。受動喫煙防止は「おもてなし」五輪開催の条件の一つともいえる。
厚労省は健康増進法の改正案で、医療施設や小中高校などを敷地内禁煙に、大学や官公庁などを屋内禁煙、劇場や集会場、百貨店、飲食店などを喫煙室設置可の屋内禁煙とするようにしている。罰則の過料は、違反した悪質な喫煙者に30万円以下、施設管理者に50万円以下として、今国会への提出を目指している。
当初案で喫煙室を容認したこと自体が甘い内容だったが、さらに厚労省は小規模のバーやスナックに喫煙を認める方針を示した。また病院や官公庁に設置済みの喫煙室は施行後5年間存続を認めた。反対論を配慮して法案の骨抜きが進んだ。
焦点は飲食店にある。「禁煙で客足が遠のく」という不安が零細店に根強い。しかし、中途半端な規制で不公平感を残すより一斉に規制した方が減収につながらないことは各種の調査研究で実証されている。新幹線やタクシーなどでも全面禁煙は受け入れられてきた。
最近普及し始めた加熱式たばこの扱いもよく検討したい。煙は出なくてもニコチンなど有害成分は漏れてくる。その影響に注意する必要がある。
周りに健康被害を及ぼしてまで喫煙する権利はない。この原則に立ち返って受動喫煙防止の社会に変えよう。そのための法案をこれ以上骨抜きにしてはならない。