自民党「愛煙家」議員暗躍!受動喫煙対策法案は骨抜きに

ダイヤモンド・オンライン http://diamond.jp/articles/-/123485

 

森友学園問題や南スーダンの自衛隊の日報問題など課題の多い第193回通常国会のなかで、政府が成立を目指そうとしている1つの法案がある。2020年の東京五輪に向けて制定を目指す受動喫煙対策法案だ。受動喫煙の制限促進に好意的な世論を考えれば、速やかに制定してもおかしくないこの法案。だが、自民党内の強硬な反対もあり、法案成立の目途は見えていない。この法案を巡る自民党内の動きについて、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。(取材・文/清談社)

 

自民一強の弊害がここにも
遅々として進まない法案成立

 厚生労働省が制定を目指す受動喫煙対策法案。当初の案では、「官公庁、競技場、社会福祉施設」の建物内は禁煙、そして「医療機関、小中学校」の建物も含めた敷地内は全面禁煙。それに加えて「飲食店やホテル、旅館などサービス業の施設」「駅や空港、バスターミナル」に関しては、建物内は禁煙とするものの、これらの施設に限っては例外として「喫煙室」の設置を認めるという内容であった。違反した場合は、自治体が勧告を行い、罰則が科されることになる。

 だがこの案は、たばこ農家や飲食店を支持団体に持つ議員たちからの反対に遭っている。その結果、厚生労働省は、3月1日に「延べ床面積30平方メートル以下のバーやスナックなどの小規模店舗」を例外にするという修正案を公表した。

 この動きについて、鈴木哲夫氏はこう解説する。

「よく永田町の論理などと揶揄されますが、今回の法案についても、永田町の感覚は一般社会と遊離しています。自民党一強の弊害とも言えますが、いまや自民党議員の多くは、社会の空気や風を読もうとする感覚を持っていません。国民の8割近くが非喫煙者で、受動喫煙の制限促進を望む圧倒的な世論の存在を無視しているんです」

「今回、自民党の動きはとにかく遅い。『飲食店が潰れる』ことを理由に反対するくらいならばまだマシで、なかには『煙草を吸うのは憲法で保障されている権利だから』と主張する議員もいるほど。憲法で保障されている権利について言及するならば、受動喫煙で健康に悪影響を受ける非喫煙者たちの権利はどうなるのか、という話になるのですが…」

 

今なお愛煙家率が高い自民党
「できれば法案は出てきてほしくない」

 なぜ、そこまで自民党は受動喫煙の制限に後ろ向きなのか。そこには党内のある事情が邪魔をしているという。

「実は単純な話で、自民党内の喫煙率が一般社会よりも断然高いからなんです。どこでも煙草を吸いたい、規制されたくない、と思っている愛煙家の議員がたくさんいます」(鈴木氏)

「なかでも、1日約60本吸うヘビースモーカーの竹下国対委員長は『煙草大好き人間としては、全エリアで禁煙にすると言われたら、どうやって生きていけばいいのかという思いだ。できれば法案は出てきてほしくない』と公言するほど。本来なら法案成立の前線指揮官であるはずの国対委員長がこの姿勢では、審議が進むはずがありません」(同)
 
 代表的な自民党内の愛煙家議員は、ほかにも野田毅前税調会長、大島理森衆議院議長、麻生太郎財務大臣、石破茂元幹事長(いずれもたばこ議連所属)など大物揃い。確かに受動喫煙対策法を強引に進めるのは難しそうだ。

 では、議論の舞台となっている、永田町の受動喫煙対策はどうなっているのだろうか。

「政界は圧倒的な男性社会ですから、元々、喫煙者が多かった。かつては、委員会室でも吸うことができたくらいです。強行採決が予想されるような場合には、凶器になる可能性もあるからと、事前に委員長席近くの灰皿が片付けられていました」(鈴木氏)

 

このままでは今国会での
成立が危ぶまれる

「さすがに今では分煙対策が進み、分煙ボックスが設置されていますが、それでも、国会内の各会派の控室や、各議員の事務所がある議員会館の部屋は、それぞれの判断で喫煙できます。また、国会内での分煙は進んでも、政治が動くのは、昼の国会ではなく、夜の会合です。そういう場面では、いまだに愛煙家たちが幅を利かせているのが実態です」

 受動喫煙対策法案を推進する側の塩崎恭久厚生労働大臣は、3月3日の参院予算委員会で、与党議員からの批判的な質問に対して、「妊婦、子ども、がん患者らの健康が、喫煙の自由よりも後回しにされる現状は看過できない」と一歩も譲らない姿勢を見せるなど、情勢は膠着したまま。果たして法案の成立は今後どうなるだろうか。

「厚生労働省が出した修正案に対しても『地方には30平方メートル以下の店はほとんどない』と主張するなど、反対派の議員たちは強硬な姿勢を崩していません。自民党内の法案の改正手続きは、このままいくとゴールデンウィーク頃まで伸びる可能性もあり、場合によっては6月18日に閉会する今国会での成立も危ぶまれます」(鈴木氏)

 現行の健康増進法は、法律上罰則がない「努力義務」にすぎない。日本の受動喫煙防止対策は世界的に見て、最低レベルなのが実態である。

 このような悲惨な現状を覆して、20年の東京五輪に向け、受動喫煙の制限を推進することができるのか。今、日本の政治家たちの国際感覚が問われている。