2017.6.5 週刊ダイヤモンド編集部 http://diamond.jp/articles/-/130523
「国会への法案提出に向けて、ぎりぎりまで議論を重ねていきたい」。塩崎恭久厚生労働大臣はそう意気込むが、議論は空転するばかりだ。
受動喫煙防止法案の今国会での成立が厳しい情勢だ。本稿執筆の6月1日時点で、通常会期の18日まで既に3週間を切っているが、「原則屋内禁煙」を主張する厚生労働省と、例外措置を求める自民党の間で溝が埋まらず、議論は平行線をたどる。
特に隔たりがあるのが、飲食店の例外の扱いだ。自民党案では、20歳未満の店内立ち入り禁止などの対応をした上で、「喫煙」「分煙」などの表示を行えば、客席部分が100平方メートル以下の飲食店での喫煙が可能だ。しかし、厚労省側は、こうした表示義務のみで喫煙を可能とする案については、小規模店のみに限定した上で時限的な措置として扱い、施行から数年後に原則屋内禁煙としたい考えだ。
東京都では100平方メートル以下の飲食店が約9割にも上るという調査もあり、例外というにはあまりにも範囲が広い。その上、それを恒久措置とするのは「とてものめない案」(厚労省関係者)だという。
2020年にオリンピック・パラリンピックを控える東京だが、国際オリンピック委員会は「たばこのない五輪」を掲げており、北京五輪以降全ての開催都市で罰則付きの喫煙規制が施行されている。対策が急務となる中、その前段階として、19年のラグビーワールドカップ前の施行をにらんだ法制化も困難となり、規制が骨抜きとなれば国際的な非難は免れない。
いまだ法案提出すらままならない状況だが、メーカーは別の焦点にも関心を寄せる。それは、加熱式たばこなどの扱いだ。
加熱式たばこでは、フィリップ・モリス・ジャパンの「アイコス」が、既に国内で300万台を売り上げ、圧倒的なシェアを誇る。その中で、巻き返しを狙うJTの「プルーム・テック」やブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンの「グロー」が、今夏から東京などでの展開を相次いで発表し、市場の拡大に期待がかかる。
現行案では、加熱式たばこも規制の枠組みに加えた上で、「健康影響が明らかでないものを政令で規制対象から除外」(厚労省)し、施行までに判断するとしている。しかし、実際に加熱式たばこと疾病との関連などを証明するには20年はかかるとされ、施行までにどのような判断基準で扱いを決めるのかは明らかでない。
あるメーカー幹部は「紙巻きたばことの有害物資が含まれる量の違いや、喫煙者にとっての利点を認識して、現実的な判断をしてほしい」と、加熱式たばこ除外への本音を漏らす。喫煙規制の強化はもはや不可避だが、加熱式たばこの扱いによっては、注力するメーカーには新たなチャンスともなりそうだ。