2018.4.18 週刊ダイヤモンド編集部 http://diamond.jp/articles/-/167607?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor
受動喫煙対策を定めた改正健康増進法案が骨抜き規制になったという非難が続出している。当初案から大きく後退した背景には、愛煙家議員による反発もあった。なんと国会議事堂などの国会施設に受動喫煙対策の抜け穴ができており、関係者の間で波紋を呼んでいる。『週刊ダイヤモンド』4月21日号の第2特集「白熱!加熱式たばこ」よりお送りする。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)
受動喫煙対策を定めた改正健康増進法案が3月に閣議決定された。その内容は、厚生労働省が昨年に示した案から大幅に後退したものだ。
例えば客席面積が100平方メートル以下の中小飲食店は、「原則屋内禁煙」(図参照)の対象外になった。2020年に開催される東京五輪・パラリンピックに向けた受動喫煙対策の強化が要請される中、規制推進派や医学界からは「骨抜きだ」との非難、不満が噴出している。
飲食店の面積要件などが注目を浴びる中、“ある場所”の規制がこれまた骨抜きになっていると、関係者の間でひそかに波紋を呼んでいる。
それが国会議事堂などの国会施設である。受動喫煙対策に力を入れる希望の党の松沢成文参議院議員は、「受動喫煙対策が一番進んでないのは実は国会だ」と呆れる。
国会議員には愛煙家が多い。国会内には至るところに灰皿が置かれ、分煙対策も完璧ではない。たばこを吸わない人がいても、平然と喫煙している実態がある。ある厚労省幹部は、「議員自身がたばこ好きとあって、今回の受動喫煙対策はなかなか理解が得られなかった」と、骨抜きの原因が議員にもあると明かす。
ちなみに、東京都では昨年の都議会選挙で都民ファーストの会が圧勝し、議会の控室が自民党と入れ替わったが、その際に都ファ関係者は目を疑ったという。「壁の色がたばこで変色していた」(関係者)のである。議会と喫煙は古くから切っても切り離せない関係があるということだ。
さて、今回の受動喫煙対策で、国会が骨抜きになったとはどういうことか。
「昨年の厚労省案の中で、『官公庁』と示されていた箇所が、閣議決定案の中では『行政機関』になっている」と、関係者は指摘する。
「官公庁」という言葉は、一般的には役所や国家機関などを指す意味で用いられるが、明確な定義はなく、国会が含まれるのか含まれないのかははっきりしない。
一方、「行政機関」は法律用語であり、明確に基準が決まっている。国会は、「立法機関」に当たるため、「行政機関」とははっきりと区別されるのだ。
以前の案において「官公庁」は、喫煙専用室の設置もできない「屋内禁煙」のエリアに指定され、比較的厳しい規制になるはずだった。ところが、閣議決定案では「行政機関」は屋内に喫煙専用室が設置できない「敷地内禁煙」に当てはまり、この案の中では最も厳しい規制になったものの、そこから外れる国会は、喫煙専用室などが設置可能な「原則屋内禁煙」エリアに当てはまる。
「つまり国会は抜け穴になった」(関係者)ということだ。
もちろん、「国会もほかの施設同様、たばこを吸うなら、喫煙専用室を設置してそこで吸わなければならないので、“規制の対象外”ということでは決してない」(厚労省関係者)。しかし、その喫煙専用室の基準は未定。そもそも「煙の流出や従業員の立ち入りもあって、分煙は受動喫煙対策にはならない」(日本禁煙学会の作田学理事長)という指摘もあり、国会が骨抜きになったと言われても仕方がない。
国会そばに隣接する議員会館では現在、フロアごとに喫煙室が設置されるなどの分煙が一応なされている。厚労省の見解では、決定された法案において議員会館は立法機関の一部として扱われ、議員会館でもたばこが吸えるのは喫煙専用室などでのみだという。
だが、現時点において、自身の執務室でたばこをバンバン吸っている議員は多い。ある愛煙家の議員は、「あんな遠くまで(喫煙室まで)行けっていうの?自分の執務室の中ぐらいなら大丈夫だろう」と、閣議決定案が成立してもあくまでこれまでの喫煙スタイルを崩さない様子を見せつける。
受動喫煙対策に実行力を持たせる責任を自覚するのであれば、まずは「隗より始めよ」である。
関連・参考 ⇒ 2018.04.06 受動喫煙対策 緩い国会、規制どうする 改正案で後退、自主的強化も(産経)