社説

受動喫煙防止対策 自民党案では「後進国」のままだ

2017年5月12日(金)(愛媛新聞) https://www.ehime-np.co.jp/article/news201705128557

 

 他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙の防止対策が一向に進まない。規制強化を盛り込んだ厚生労働省の健康増進法改正案に対し、自民党たばこ議員連盟が内容を大きく後退させる対案をまとめ、抵抗している。

 現在、受動喫煙対策を努力義務にとどめている日本の対応は世界で最低レベルにある。厚労省の推計では、受動喫煙によって肺がん、心筋梗塞、脳卒中が引き起こされ、国内の死者は年間1万5千人に上る。深刻な健康被害をもたらしている現実を直視し、一刻も早く規制強化に踏み出す必要がある。

 厚労省案は、学校や病院は敷地内禁煙とし、飲食店は喫煙室の設置による分煙を容認。さらに小規模のバーやスナックは例外として喫煙を認め「屋内全面禁煙」は見送った。それでも自民は飲食店やたばこ産業界の懸念を背景に「厳しすぎる」と反発。小規模飲食店は「喫煙」や「分煙」の店頭表示で喫煙を認める案を示した。事実上全ての小規模店で喫煙が可能となり、厚労省案は骨抜きにされる。

 自民は「望まない受動喫煙を防止する」との観点でまとめたと主張する。だが塩崎恭久厚労相が「職場の歓送迎会などで望まない受動喫煙を強いられることになる」と指摘したのは当然だ。喫煙室を設置しても扉の開閉による煙の漏出を完全に防げず、接客する従業員の健康被害防止の視点も欠く。厚労省案ですら世界保健機関(WHO)の分類で4段階のうち下から2番目という甘い対策なのに、自民案のようにさらに緩和すれば、もはや効果は期待できまい。

 WHOと国際オリンピック委員会は「たばこのない五輪の実現」で合意しており、2020年東京五輪・パラリンピックに向け、日本政府にも実施を求めている。近年、五輪を開催した中国、英国、ブラジルは法制化して徹底した。規制強化は開催国の責務である。東京五輪の成功を名目に、疑義の多い「共謀罪法案」をごり押しする自民の姿勢の違いに閉口する。

 飲食店業界が禁煙に反対する理由には客が減るという心配がある。だがWHOの調査では、全面禁煙にした世界のレストランやバーの売り上げは不変、あるいは逆に増えたという。大阪府の調べでも同じような結果が出ている。

 考えるべきは国民の健康である。まずは吸わない人を煙から守る対策に知恵を絞り、抜本的に案を見直さねばならない。

 自民は来週にも厚生労働部会を開き、厚労省との議論を3カ月ぶりに再開させる。しかし意見の隔たりは大きく、改正案の今国会提出が危ぶまれている。安倍晋三首相が1月の施政方針演説で約束した「受動喫煙対策の徹底」の実現は遠のくばかりで、ここは首相が調整に乗り出すべきだ。世界の要請に応え規制を強化するのか、「対策後進国」の不名誉なレッテルを貼られたままでいいのか。首相の本気度が問われている。