社説

受動喫煙対策 実効性ある規制へ抜本見直しを

2017年11月22日(水)(愛媛新聞) https://www.ehime-np.co.jp/article/news201711226183 

 

 

 「国民の健康を守る」という政府の重大な責務を忘れているとしか思えない。厚生労働省が他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙を防ぐ対策として、当初よりも大幅に後退させる健康増進法改正案を検討している。

 昨年示した案では、喫煙可能な飲食店の店舗面積は「30平方㍍以下」だった。だが自民党の反対を受け、改正案はまとまらなかった。新たな案では原則室内禁煙としつつ「150平方㍍以下」は例外にしている。例えば東京都の場合、飲食店の約7割が100平方㍍以下で、150平方㍍だと、より多くの店が喫煙可能となる。さらに150平方㍍以上でも喫煙室を設ける「分煙」も認めた。喫煙規制を骨抜きにする「ざる法」に等しく、到底容認できない。

 厚労省は、世界保健機関(WHO)などの要請に応え、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までに「受動喫煙のない社会を目指す」との目標を掲げている。WHOも喫煙室を設けて分煙にしても受動喫煙を防ぐことはできないと指摘。日本も批准しているたばこ規制枠組み条約では、屋内全面禁煙を唯一の解決策としている。規制が甘くなれば、大きな効果は期待できない。何のために規制を設けるのか、根本に立ち返った議論を求めたい。

 受動喫煙による被害の深刻さを直視する必要がある。国立がん研究センターによると、日本人でたばこを吸わない人が肺がんになる危険性は、受動喫煙によって1・3倍に上昇。厚労省は受動喫煙によって年間約1万5千人が死亡し、24万人が病気になっていると推計している。対策は喫緊の課題だ。

 自民は規制強化反対の理由として、タバコ農家や愛煙家の吸う権利の保護などを挙げ、中でも「飲食店の売り上げが減る」と強く訴えている。しかし厚労省は影響は限定的とみる。13年に全席禁煙に踏み切った大手ファミリーレストランは一時的に売り上げが落ちたが、3カ月程度で回復したと説明する。自民の主張は支援を受けている飲食店団体やたばこ業界の代弁にすぎず、経済性や選挙対策を重視する姿勢を強く危惧する。

 がん予防にも悪影響を及ぼしている。先月下旬に閣議決定した第3期がん対策推進基本計画では、健康増進法改正案がまとまらなかったことで、受動喫煙にさらされる人の割合をゼロにする目標設定を断念した。対策の遅れは国民全体の不利益につながる。規制強化へと議論をリードすることこそが与党の重要な役割だと自覚するべきだ。

 加藤勝信厚労相は「実効性のある改正案を可能な限り早期に国会に提出したい」とするが、今の案では本気度が疑われる。東京都は独自に公共施設や飲食店の屋内を原則禁煙とする条例制定を目指している。国民の命を守るには、全国一律の対策が不可欠だ。真に実効性の高い対策となるよう、抜本的に見直さなければならない。