受動喫煙対策また後退 全面禁煙原案に立ち返れ
(2017年3月6日午前7時25分) 福井新聞 【論説】 http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/116552.html
【論説】
「東京五輪・パラリンピックを前に受動喫煙対策を徹底する」。1月の施政方針演説で安倍晋三首相がきっぱり断言した約束の雲行きが怪しくなってきた。たばこ・飲食店業界の強い反発ばかりか、お膝元の自民党内からも強化策に批判の声が相次ぐ始末。小規模店の喫煙を例外的に認める方向で調整が進み厚生労働省原案は後退しそうだ。近年の五輪開催国では屋内全面禁煙が当たり前。「たばこのない五輪」へ日本の責務は重く、世界との約束をたやすく破ってはならない。
昨年10月に厚労省がまとめた原案は、学校・病院が敷地内全面禁煙、官公庁などは建物内禁煙、飲食店・オフィスなどは原則禁煙とし、喫煙室設置を認める内容。悪質な違反者には罰則を設けた。こうした対策を盛った健康増進法改正案を今国会に提出する方針だ。
ところが、厚労省は延べ床面積30平方メートル以下のバーやスナックなどの喫煙を認める案の検討へかじを切り始めた。業界の反対で修正しようというわけだ。原案はもともと飲食店の喫煙室設置を認めており、これだけでも甘すぎるとの批判が出ていたが、修正案でさらに緩めようとしている。
追い打ちを掛けるように自民党厚生労働部会からも「禁煙でなく分煙大国を目指すべき」「罰則は国民の自由を脅かすものだ」などと反対の声が続出した。
自民議員100人以上が日本たばこ産業(JT)から献金を受けている。全員が反対しているわけではあるまいが、これで受動喫煙対策について中立的な議論ができるか疑問だ。業界利益と、国民の健康・五輪開催国の責務とのどちらが重いか、てんびんにかけなくても分かるだろう。
厚労省推計で受動喫煙による死亡者は年間1万5千人。吸わない人が自分の意思に関係なく煙を吸わされてはたまらない。2003年の健康増進法で受動喫煙防止が定められ、禁煙・分煙は進んだが、その後の法改正でも屋内全面禁煙は「義務」から「努力」規定へと格下げされてきた。
世界保健機関(WHO)は受動喫煙防止には100%屋内の全面禁煙しかないと断言。分煙や喫煙室の効果も否定している。
受動喫煙対策の13年調査(厚労省)で取り組みの障害になっているのは、「喫煙室から漏れる煙は完全に防げない」「客の喫煙はやめさせられない」「喫煙者の理解を得られない」だった。喫煙室や機器の設置、維持管理に多くの経費をかけるくらいなら、全面禁煙にした方が経費もほとんどいらない。社員や来客の健康にもいい。
安倍政権の新成長戦略は20年までに受動喫煙のない職場実現を目標とし、がん対策基本計画や健康日本21計画に数値目標も盛っている。厚労省はき然と原案に立ち返るべきである。こんな緩い喫煙規制のまま五輪を開くことなどできない。