2020年5月29日 午前7時30分 福井新聞 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1094764
【論説】新型コロナウイルスに感染すると、喫煙が重症化のリスクを高めるとして、世界保健機関(WHO)などは禁煙を呼び掛けている。日本では受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が4月1日に全面施行され、不特定多数が利用する施設が原則禁煙となったが、受動喫煙を防ぐには不十分とされる。「世界禁煙デー」(5月31日)を前に、改めて喫煙と健康被害について考えてみたい。
中国の新型コロナの感染者約千人を調査した報告によると、喫煙経験者が重症化するリスクは非喫煙者より約1・7倍高かった。また集中治療室(ICU)へ入室し、人工呼吸器が装着され、死亡に陥るリスクは約3倍高くなった。
喫煙により、異物を取り除く気道の機能が落ちて感染しやすくなり、免疫力も低下して症状が重くなりがちだと考えられている。
また、たばこを吸うとウイルスに汚染された可能性のある手を何度も口元に近づける。日本呼吸器学会は4月に「喫煙が最大の重症化リスク」との声明を発表。さらに、喫煙室は密閉、密集、密接の「3密」の典型で濃厚接触の場となると注意喚起した。実際、福井県で発症した50代の男性は、3月に会社の屋内喫煙室で感染者と約30分間会話しており、ここで感染した可能性がある。
4月から新たに飲食店や職場、ホテルのロビー、公共交通機関などが規制対象となった。加熱式たばこも規制され、悪質な違反者には罰則が科される。ただし、飲食できない喫煙専用室は設置できる。飲食店のうち資本金5千万円以下、客席面積100平方メートル以下の既存店は当面の間、「喫煙可」と表示すれば喫煙が認められる。
最も受動喫煙しやすいといわれる飲食店で禁煙が進んだのは一歩前進だが、小規模店の例外規定が抜け穴となっている。厚生労働省の改正法施行前の推計では、喫煙専用室を設けずにたばこが吸える飲食店は55%に上った。
東京都では国の法律より厳しい受動喫煙防止条例を完全施行し、従業員を雇う店では面積にかかわらず原則として屋内禁煙とした。
喫煙専用室があっても、そこを介して新型コロナの感染が広がることは避けなければならない。一方、禁煙すると感染症への抵抗力は回復するといわれている。厚労省には、改正法の本来の目的である「望まない受動喫煙」の防止と新型コロナ対策の両面から規制強化を求めたい。
また、テレワークなどによる在宅での喫煙も懸念されている。「家にいても家族や近隣の受動喫煙を増やさないで」との日本呼吸器学会の呼び掛けを重く受けとめたい。