配信 現代ビジネス https://news.yahoo.co.jp/articles/6e64e89d90fe653057c9002f0a92cd27f086ed77
たばこ税の増税に伴い、たばこの値段が10月1日から値上げされる。
代表的な紙たばこ「メビウス」(1箱20本入り)は540円から580円となる。たばこ値上げには賛否両論があるものの、それ以上に問題なのは税収問題だ。増税はたばこ以外に波及する可能性を秘めている。
たばこには「紙巻きたばこ」、「軽量葉巻」、「加熱式たばこ」などの種類があるが、代表的な紙巻きたばこの状況を簡単に説明すると、紙巻きたばこの販売は受動喫煙などの健康被害の悪役として“狙い撃ち”されたこともあり、販売本数は1996年の3483億本から2020年の988億本と、71.6%も激減している。(表1)
喫煙率は1996年には男性57.5%、女性14.2%だったが、2018年には男性27.8%、女性8.7%にまで低下した。
これだけ販売本数が減少すれば、当然、たばこ販売店などにも影響は及ぶ。
たばこ販売小売店は2003年の30万7000店をピークに、2020年3月末には23万7100店と、22.8%も減少。たばこ自動販売機は2002年の62万9000台をピークに、2020年末には12万3000台と、80.4%も減少した。
たばこ販売本数の減少には受動喫煙など健康被害の問題もあるが、それ以上に大きな影響を与えているのが「たばこ増税」と「消費増税」で、増税が実施される度に販売本数が大きく減少している。(表2)
販売本数のピークだった1996年以降、前年比で増加したのは僅かに3年しかなく、販売本数は増税を受け、減少を続けてきた。
ところが、販売本数が減少したにもかかわらず、2016年までは売上高3兆5000億円以上を維持し、ほぼ横ばい状態を保ってきた。(表3)
販売本数の減少を「値上げ」という形にして売上高を維持するのは、普通の商売であれば典型的な“破綻型モデル”だ。
それでも、喫煙率が下がろうが、販売本数が減少しようが、値上げによって売上高は維持できてきたのだ。
ところが、このモデルも大きな曲がり角を迎えた。
それは、2018年から「高齢化の進展による社会保障関係費の増加等もあり、引き続き国・地方で厳しい財政事情にあることを踏まえ、財政物資としてのたばこの基本的性格に鑑み、たばこ税の負担水準の見直し等を実施する」として複数年にわたる“たばこ増税”が始まったことだ。(表4)
ここ数年で、紙巻きたばこで3回、加熱式たばこで5回、軽量葉巻で2回の増税が実施・予定されており、今年10月1日からのたばこの値上げもこのスケジュールに沿ったものだ。
この間、紙巻きたばこで言えば、2018年9月まで12.244円(1本当たり)だったたばこ税は、2018年10月、2020年10月、2021年10月に1円ずつ引き上げられ、今回の値上げで15.244円(1本当たり)となる。
冒頭に述べたように、代表的な紙たばこ「メビウス」は540円から580円に40円値上がりする。
前回の値上げ2020年10月の時は490円から540円に50円値上げされた。たばこ税が1本当たり1円の値上げであれば、1箱20本入りの値上げは20円のはずだが、消費税分が加算されることで前回50円、今回40円という値上げ幅になっている。
現在のメビウス販売価格540円のうち、消費税を含む税金部分は309.4円であり、販売価格の61.8%を占めている。簡単に言えば“税金を吸っているようなもの”なのだ。
“たばこが離れ”が進む中で、それに拍車をかけるように値上げをし、“破綻型ビジネスモデル”となりながらも、それでもなお値上げをするのは、この“税金”に根源がある。
販売本数がピークだった1996年から58.2%も販売本数が減少した2017年にあっても、たばこ税による税収は2兆円台を維持してきた。(表5)
つまり、たばこ離れが進む中で、健康被害の悪役にされがちなたばこには、「値上げに対する抵抗感が薄い」ということを利用して、税収2兆円を維持してきたのだ。
しかし、前述のようにこのモデルも大きな曲がり角を迎えている。それは、複数年にわたる「たばこ増税」が明らかになった2017年から、販売本数が急激に減少し始めていることにある。
この結果、売上高も減少が続き、ついにはたばこ税収も2018年には1.98兆円、2019年には1.99兆円と2兆円を維持することができなくなっている。
2020年4月1日からは改正健康増進法が施行され、屋内では原則全面禁煙となった。加えて、新型コロナコロナウイルスの感染拡大対策として、さまざまな場所で喫煙所の閉鎖が相次いでいる。
そこに値上げが加われば、2020年に販売本数がついに1000億本を割り込んだように、今後も販売本数は大きく減少する可能性が大きい。
たばこ税収が減少すれば、税収をたばこ以外に求める必要がある。たばこ税収は2兆円程度だ。仮に消費税率を1%引き上げると、税収は2.5兆円程度増加する。
今後、たばこ税の減収に歯止めがかからなければ、その穴埋めのために、消費税や他の税率の引き上げが起きてもおかしくない。実際、2020年にはたばこ増税とともに、酒税の増税も行われた。
新型コロナウイルス対策への財政出動により、財政赤字は“爆発的”に増加した。財政を健全化するためには税収の増加が不可欠だ。
だが、もはや「たばこ税」にその役割を担う力はなくなっている。果たして、政府はどんな増税策を打ち出してくるのか、警戒しなければならない。