2017/6/12(月) 19:55配信 ホウドウキョク https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170612-00010005-houdouk-pol
受動喫煙対策を強化する法案が迷走
厚労省は今国会での成立をめざし、床面積30平方メートル以下のバーやスナック以外は原則屋内禁煙とする法案を主張するが、自民党側はすべての飲食店を対象に、100平方メートル以下の店は店頭に『喫煙』や『分煙』などと表示すれば喫煙可能とする案を提示し、両者は合意には至っていない。
受動喫煙の健康被害は、国内外で広く研究、検証がされている
アメリカのワシントン大学では、世界で年間60万人が受動喫煙のために亡くなっているというデータを発表した。同じくアメリカの政府機関Surgeon
Generalは、受動喫煙の影響で肺がんの罹患率が2~3割上昇し、幼児においては、受動喫煙により気道感染が5割、喘息が3割以上上昇するとの報告書を出している。
自民党の部会では、一部議員から「私が家の中でたばこを吸っても、子どもも孫も一切不満は言いません」などという噴飯物の発言まで飛び出していた。
受動喫煙の健康被害に対する意識の低さ、無見識は驚くべきである。
自民党側が主張するのは飲食業の売り上げへの影響
受動喫煙禁止を巡る議論の中で、自民党側が主張するのは飲食業の売り上げへの影響だ。
飲食店への影響について、医療経済学を専門とするハーバード大学公衆衛生大学院の津川友介氏は、「飲食店全体でみれば影響はないと考えられます」と強調する。
アメリカの調査機関によると、飲食店の売り上げへの影響は、バーが6%低下するものの(長期的には変化なしと推定)、レストランに変化はなく、ホテルやアミューズメント施設も含む接客業全体では4%上昇するという。
津川氏は、「飲食店には勝ち組と負け組が出てくるでしょう。お酒をメインにしている店は、食事も提供するなど営業努力が必要となります。一方、日本人の8割は非喫煙者です。これまで分煙を嫌がっていた非喫煙者が、店に来るようになれば売上を伸ばすチャンスとなります。」
レストランなど食事メインの場所が禁煙にすれば、これまで喫煙や分煙を嫌って訪れなかったファミリー層や妊婦などの集客力が増す。
人口の8割を占める非喫煙者か、2割の喫煙者か。どちらにアプローチすれば顧客層が広がるのかは、一目瞭然だ。
さらに2019年にはラグビーのワールドカップ、2020年には東京五輪が控えている。これまで以上の訪日外国人数が期待される中、受動喫煙に敏感な彼らの目に『タバコの吸える食堂やラーメン屋』はどう映るだろうか。今後期待されるインバウンドにも、影響が大きい。
海外メディアはこうした動きの鈍さに呆れ
これだけのエビデンスがそろいながら、なぜ、政治の動きは鈍いのか?
海外のメディアはこうした動きに呆れている。英・フィナンシャルタイムズ(FT)は、WHO(世界保健機構)が、日本の受動喫煙禁止に対する姿勢を、世界で最低ランクと評価したと紹介する。
さらにFTは、「世界で50か国が屋内での喫煙を禁じているのに、日本では日本たばこ産業=JTが政治家の支持を得ながら室内禁煙に抵抗している」としたうえで、JTを所管する財務省の麻生大臣が国会で、肺がんと喫煙の因果関係に疑問を呈したことを紹介している。
政府は「日本は健康大国だ」と国際社会に向けてアピールしている。
しかし前述のハーバード大学の津川氏は、「日本は世界水準からみると途上国並み、ガラパゴス化している」と警鐘を鳴らす。
「確かに日本は世界トップの長寿国で、すぐれた医療技術を持っています。街並みはきれいで上下水道は完備され、公衆衛生への意識も高い。国民の健康を守る国民皆保険制度もあります。しかし、受動喫煙に関しては、日本は途上国レベルです」
政府が9日閣議決定した成長戦略では、「健康寿命の延伸」に政策や投資を集中させる方針を示した。
しかし、津川氏は日本政府の姿勢に疑問を呈す。
「日本の政治は本当に国民の健康に向いているのでしょうか?日本では非喫煙者が8割を占めています。この8割が声を出せば、政治は必ず変わります」
東京都議選挙では、小池知事が率いる都民ファーストの会や民進党が、受動喫煙防止条例を掲げている。
安倍政権が真摯に国民の健康に向き合っているのか、受動喫煙対策への姿勢がまさにその試金石となる。