世界の潮流から、ますます遠ざかってしまうのではないか。
政府は、受動喫煙防止策を強化する健康増進法改正案の今国会提出を断念し、秋の臨時国会に先送りする方針だ。
例外的に喫煙を認める飲食店の線引きを巡り、厚生労働省と自民党の溝が埋まらなかった。とりわけ、厳しい基準の設定を拒む自民党の姿勢はかたくなだった。
周知期間を考えれば、政府が目指してきた2019年ラグビーワールドカップ(W杯)日本開催までの実施に間に合うか、危うい状況になりつつある。
大切なのは、国民の健康を守るという視点だ。政府と与党はあらためてこれを共通認識に据え、議論を仕切り直さねばならない。
焦点の飲食店について厚労省は、激変緩和期間を設けた上で、例外を約30平方メートル以下のバーなどの小規模店に限る案を示した。
ところが、自民党は例外を150平方メートルまで広げ、店頭に「喫煙」「分煙」と示した上で、飲食店の業態に関係なく喫煙可能とするよう求めた。
自民党案だと、店頭表示があれば大半の飲食店で喫煙が可能だ。
背景に「商売への影響が大きい」とする飲食店業界などの意向もあるのだろうが、他者の煙を吸わない権利への配慮が薄い。
日本では年に1万5千人が受動喫煙被害で亡くなるという推計もある。
それだけに、例外的に屋内喫煙を認めるにせよ、客だけではなく店主、従業員らすべての同意があることが最低限必要だろう。
世界保健機関(WHO)の調査では、14年時点で世界188カ国中49カ国が、飲食店を含む「屋内全面禁煙」の法規制を持つ。
法規制がない日本は、受動喫煙防止対策のWHO評価で最低ランクに甘んじている。
19年のラグビーW杯に加え、20年には東京五輪・パラリンピックも開催される。
国際オリンピック委員会(IOC)は10年以降、「たばこのない五輪」を推進し、近年の五輪開催国は屋内全面禁煙を徹底。大きなスポーツイベントではたばこ排除が当たり前になってきている。
東京五輪の成功に意欲を示す安倍晋三首相は、さまざまな政策に関して「五輪のために」という言葉を持ち出している。
ならば、国民の健康と密接に関係する受動喫煙防止でも傍観者にならず、もっと積極的な姿勢を示すべきでないか。