国会に喫煙「特権」 スペース80カ所 愛煙家議員ら圧力 規制が骨抜き

2019/10/14(月) 5:30配信    北海道新聞 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191014-00010000-doshin-pol

 

受動喫煙防止で「議決機関」は対象外

 受動喫煙防止の流れが強まる中、北海道議会の自民党会派が新庁舎への喫煙所設置を決めたように、国会内でも喫煙は認められたままだ。国会が昨年、行政機関を屋内全面禁煙とする改正健康増進法を制定する際、愛煙家の議員らの反発を受け、地方議会を含む「議決機関」を対象外としたからだ。専門家らは「国権の最高機関である国会こそ、議員特権に甘えず受動喫煙防止の先頭に立つべきだ」と訴える。

「自分の部屋なんだから」議員事務所で一服

 国会で喫煙ができるスペースは衆院本会議場入り口横、食堂、議員会館など計約80カ所に上る。このほか「自分の部屋なんだから」(ベテラン)と議員事務所や会派控室で喫煙する議員も多い。ただ、議員事務所には秘書らが常駐し、省庁の職員や陳情客も訪れるため、受動喫煙の恐れがある。国会見学コースの廊下に控室から煙が漏れるのも珍しくない。

当初案での屋内全面禁煙「官公庁」消える

 政府は2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、国際的に緩いとされる受動喫煙対策の強化を検討。17年3月に公表した健康増進法改正案の当初案は、国会などの議決機関を含む「官公庁」を屋内全面禁煙とした。

 だが、1年後に国会へ提出した案では「官公庁」の分類が消えた。省庁や都道府県庁などの「行政機関」は屋内全面禁煙のままに。「議決機関」は、飲食店やホテルと同じように、喫煙専用室による分煙を認める「原則屋内禁煙」に後退した。議員を特別扱いして規制が骨抜きにされた形だ。

国会に喫煙「特権」 スペース80カ所 愛煙家議員ら圧力 規制が骨抜き

国や北海道議会など各機関の対応の比較
国会に喫煙「特権」 スペース80カ所 愛煙家議員ら圧力 規制が骨抜き 衆院本会議場入り口横の分煙機。本会議を抜け出して「一服」する議員もいる

たばこ関連の企業や団体から支援

 この間、何があったのか。複数の議員は「規制に反対する議員から強い圧力があった」と明かす。国会議員は愛煙家も多く、たばこ関連の企業や団体から支援を受けている議員も与野党にいる。「禁煙より分煙」を掲げる自民党たばこ議員連盟には会長の野田毅元自治相ら党の重鎮が名を連ねる。

 こうした分煙派議員たちは、法案を事前に審査する自民党部会などで「喫煙室があれば分煙できる」「議員事務所で吸えないと困る」などと当初案からの変更を主張。反論した中堅議員は「変な運動に関わるな」と先輩議員からくぎを刺されたという。

「会派の責任と費用」で喫煙所整備も

 同法が全面施行される20年4月以降も、国会では厚生労働省が定める基準を満たせば、喫煙所を基本的に維持する方向。参院は議員事務所内を禁煙にするが、議員の会派控室には「会派の責任と費用」で喫煙所を整備できるようにする。

青森県議会は敷地内を全面禁煙に

 対応を丸投げされた形の地方議会は温度差が目立つ。青森県議会は6月いっぱいで喫煙室を廃止し、7月から屋外を含む敷地内を全面禁煙にした。一方、北海道議会は最大会派の自民党・道民会議が4日、来年1月完成予定の新庁舎の会派控室に喫煙所を設置することを決定。「議員特権」と多くの道民が反対し、鈴木直道知事も「税金で設置するのは難しい」と宣言する中、「喫煙所はたばこ会社から寄贈を受ける。完全分煙すれば誰にも迷惑はかからない」(自民党・道民会議幹部)と押し切った。分煙にこだわる構図は国会と似ている。
 
 国会でも対策強化を望む声は多くない。受動喫煙対策の徹底を求めてきた自民党議員は「法律で決まった以上、ルールに沿って国会内の分煙が徹底されているかチェックするしかない」と漏らす。

「国会を『分煙』にしたのは大失敗」

 超党派の国会議員でつくる「国際基準のタバコ対策を推進する議員連盟」の松沢成文幹事長は「一部議員の圧力で国会を『分煙』にしたのは大失敗。率先して受動喫煙防止に取り組むべきだ」と主張。たばこ対策を研究する産業医科大(北九州市)の大和浩教授は「受動喫煙を防ぐには敷地内全面禁煙が必要条件。国会議員も地方議員も特権意識があるのかもしれないが、最低でも建物内は禁煙にするべきだ」と求めている。

改正健康増進法

 他人が出すたばこの煙を吸い込む受動喫煙を防ぐため、多数が利用する施設内を原則禁煙とすることを定めた法律。昨年7月に成立した。今年7月から一部が施行され、行政機関、学校、病院が原則敷地内禁煙となった。屋内は全面禁煙で、屋外には喫煙所を設置することもできる。全面施行される来年4月からはホテル、飲食店、鉄道、議決機関などが原則屋内禁煙となるが、煙が外部に漏れないようにする喫煙専用室を設置できる。