これで国民の健康を守ることができるのか、大いに疑問だ。
厚生労働省が、新たな受動喫煙対策案を発表し、3月にも健康増進法改正案を国会に提出する。
例外的に喫煙を認める飲食店の面積が焦点となっており、当初案の「30平方メートル以下」から「150平方メートル以下」へ5倍広げる方向で調整中だという。
東京都の試算では、飲食店の9割でたばこが吸えるようになる。
これでは、もはや例外とは呼べない。がん患者団体などから「骨抜き」と批判が出るのも当然だ。
受動喫煙の影響で亡くなる人は、年1万5千人と推計され、交通事故死の4倍に上る。
受動喫煙で肺がんや脳卒中になるリスクは1・3倍高まり、その被害にかかる医療費は年3200億円と試算されている。
こうした現実を直視すれば、健康への配慮があまりに足りないのではないか。
厚労省は昨春、30平方メートル以下の小規模店を例外とする案を打ち出したが、自民党の強い抵抗を受けて、昨年の通常国会への法案提出を断念した。
このままでは、目標とした2019年ラグビーワールドカップまでの施行が危うくなるため、厚労省側が折れた形だ。
自民党案は、150平方メートル以下の店舗を喫煙可能とした上で、店頭に「喫煙」「分煙」と表示する。厚労省案から大きく後退し、規制としての効果は疑わしい。
背景には、飲食業界やたばこ業界の反発がある。
だが、本当に禁煙は飲食店の不利益になるだろうか。喫煙率は2割程度に低下し、逆に、禁煙が歓迎される場合もあるだろう。
大手ファミリーレストランが全席禁煙に踏み切った結果、売り上げが4%増えた例もある。
健康への影響を考えれば、屋内喫煙を認める店舗では、少なくとも従業員らの同意が欠かせまい。
世界保健機関(WHO)によると、55カ国が飲食店を含む公共の場所を屋内全面禁煙としており、今や世界標準と言えよう。
日本は最低レベルで、自民党案では国際的潮流に追いつけない。
国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」を推進しており、少なくとも08年の北京以降すべての開催地が罰則付き受動喫煙防止策を講じている。
20年東京五輪・パラリンピックの開催国として、政府・与党は、より厳格な規制を練り上げ、世界標準に近づける必要がある。