2018年3月5日(月) 茨城新聞 http://editorial.x-winz.net/ed-88793
受動喫煙の防止対策を強化する健康増進法改正案が固まった。焦点となっていた飲食店の扱いについては、喫煙できる例外の範囲が当初案より大幅に広くなった。これでは他人のたばこの煙を吸わされることによる健康被害は防げない。根本から見直すべきだ。
厚生労働省が策定した改正案を自民党が大筋で了承した。政府は今月中にも閣議決定して国会に提出する。
改正案は、不特定多数の人が集まる建物内を罰則付きで原則禁煙とするが、「喫煙専用室」では喫煙できる。ただし、客席面積が100平方メートル以下で資本金が5千万円以下の既存飲食店では、「喫煙可」などと店頭に表示すれば、専用室がなくても喫煙を認める。
厚労省が昨年3月に公表した当初案は、たばこが吸える飲食店を店舗面積が30平方メートル以下のバーやスナックに限っていた。自民党が反対して調整が難航していたが、厚労省が面積を拡大し、業態の制限もなくすことで折り合った。大きな譲歩である。
この内容では、改正案は「ざる法」と言うしかない。厚労省の試算では、喫煙専用室を設けなくても全体の55%の飲食店でたばこが吸えることになる。家族客が来る店も多く含まれ、子どもも受動喫煙による健康被害を受ける。従業員の健康被害は言うまでもない。そもそも例外の方が多数では、飲食店に関する限り「原則禁煙」は有名無実になってしまうではないか。
受動喫煙対策の強化は待ったなしの課題である。受動喫煙が原因の死亡者は推計で年間約1万5千人に上り、2017年の交通事故死者数の約4倍である。しかも、たばこを吸わない人の約4割が飲食店で受動喫煙を体験している。今まで対策がほとんどなおざりにされていたことが異常なのである。
世界保健機関(WHO)によると、17年時点で公共の場所全てを屋内全面禁煙としている国は55カ国あり、日本の受動喫煙対策は世界最低レベルである。これから対策を強化しようとしているところだが、この改正案の内容を実現しても、世界標準には程遠い。
自民党のたばこ議員連盟などが厳しい喫煙規制に反対している背景には、客が減ることを心配する飲食店業界の声があるが、禁煙で飲食店の売り上げが落ちたことを示す明確なデータはない。反対に、禁煙を実施する店はたばこを吸わない客が増えることが期待できるだろう。反対論は杞憂(きゆう)に基づいている。
自民党にも喫煙規制の推進派がいる。党内から改正案の見直しを求める声を上げてほしい。この問題で野党の声があまり聞こえてこないのも気になる。国民の健康のために力を発揮してほしい。超党派の「受動喫煙防止法を実現する議員連盟」は、喫煙できる飲食店をバーやスナックに限る対案を作成して議員立法を目指している。こうした動きにも期待したい。
今回の法改正を後押ししたのは、20年の東京五輪・パラリンピック開催だ。WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は10年に「たばこのない五輪」の実現で合意しており、それ以降の五輪開催国は罰則を伴う厳しい喫煙規制を導入している。この改正案では、たばこのない五輪は不可能になってしまう。政府は大幅な修正をためらってはならない。