どうなる、受動喫煙防止法改正─松沢しげふみ参議院議員に聞く(1)

2017/5/8(月) 10:48 -科学(石田雅彦)https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20170508-00070735/

 

安倍晋三首相は、今年(2017年)1月20日の施政方針演説で「3年後に迫ったオリンピック・パラリンピックを必ず成功させる」とし、「受動喫煙対策の徹底」を進める、と明言した。現政権として受動喫煙の防止強化をハッキリと国民に約束したことになる。

IOC(国際オリンピック委員会)とWHO(世界保健機関)は「たばこのない五輪」を求め、4月7日に来日したWHOのアサモア・バー事務局次長は、丸川珠代五輪大臣に受動喫煙防止対策などの徹底を強く要望した。五輪を契機に受動喫煙法制を定めた英国やブラジルなどでは罰則付きの厳しい内容となっている。

政府主導で進めるわが国の受動喫煙防止対策強化は、周知期間を要する罰則付きとするのなら、今国会(2017年6月18日まで)での健康増進法の改正案成立が望ましい。

だが、政府(厚生労働省)が受動喫煙の防止対策強化を目的とする健康増進法改正案には、とりわけ与党の自民党、衆参で約280名の議員が参加している「たばこ議員連盟」から激しい抵抗が出てきた。自民党内では厚生労働部会も開かれず、あくまで徹底抗戦、という膠着した状況だ。

そこで神奈川県知事時代、全国の都道府県に先がけて受動喫煙防止条例を制定した松沢しげふみ(成文)参議院議員にインタビュー(2017年5月2日)し、受動喫煙防止の改正が実現するかどうか(今回)、またいわゆる「タバコ利権」について(次回)聞いてみた。松沢議員は「東京オリンピック・パラリンピックに向けて受動喫煙防止法を実現する議員連盟(尾辻秀久会長、旧・禁煙推進議員連盟)」の幹事長兼事務局長でもあり、今国会でも再三、健康増進法の改正の推進について質疑に立っている。

──昨年(2016年10月)に厚労省が「受動喫煙防止対策の強化について(たたき台)」を出した(※1)。それが今年(2017年3月1日)の「受動喫煙防止対策の強化について(基本的な考え方の案)」で「飲食店のうち、小規模(●平米以下)バー、スナック等(主に酒類を提供するものに限る)は、喫煙禁止場所としない」(※2)など、後退した印象を受ける。

 

松沢「安倍さん(首相)も含めて官邸では、2019年のラグビーW杯や東京五輪を目指し、受動喫煙防止対策の強化にかなり積極的に動こうとしていました。厚労省もそれを受けて改正案を考えつつ、昨年の『たたき台』を出してみた。厚労省としては、安倍さんや政府がやろう、ということで自民党内の反対派も説得できるのではないか、と考えていたようです。しかし、いわゆる『タバコ族議員』の反発が予想外に強く頑固だったんですね。おそらく厚労省は、ここまで反対の声が大きく猛烈になると予想していなかったんじゃないでしょうか。厚労省に対して私は『これは大変だよ』と何度も言ってきたんですが、読みが甘かった、政治的な戦略をきっちり固めていなかった、と言わざるを得ません」

──政府・首相官邸の態度や考え方(※3)についてはどうか。

 

松沢「受動喫煙防止対策強化を訴えてきた我々も超党派の議連をつくり、厚労省とはずっと議論をしてきました。東京五輪がそのきっかけになる、ということで山東さん(昭子、元参院副議長)のところ(自民党の受動喫煙防止議員連盟)とも一緒になって、1年以内に受動喫煙防止対策を盛り込んだ推進法(プログラム法)を厚労省が作る、という法案を考えていたんです。そうしたら官邸のほうから、反対派を考えれば推進法と実施法の二段構えだと時間もかかるし彼らの説得も大変だ、官邸が内閣官房に検討会を作って政府主導で必ずやるから応援団にまわってくれ、と言ってきた。我々としてはその言葉を信じて、原則禁煙で分煙には逃げるな、罰則を付ける、この2点は絶対に守ってくれ、ということで推進法は取りやめにした、という経緯があるんです」

──松沢議員は、神奈川県知事のときに受動喫煙防止条例を作ったが、今の国会での状況をどう考えるか。

 

松沢「私は知事一期目のとき、企業誘致や姉妹都市提携などで海外視察へ出てみて日本のタバコ対策の遅れを実感しました。そこで二期目の公約のトップに『神奈川県禁煙条例』という厳しい文言で入れたんです。その公約で当選させていただいたので県民とのお約束ということになる。県議会をはじめ、関連諸団体にもていねいに説明させていただいたつもりですが、飲食業界やパチンコ業界、サービス業界全体からいっせいに大反対の声があがりました。その声を背景にした議会対策に奔走しましたが、今の国会はまさにあのときのデジャブですよ」

──神奈川県に追随し、都道府県では兵庫県も受動喫煙防止条例を作ったが、なかなか全国レベルで広がっていかない。

 

松沢「千葉県などはかなり積極的に考えてくれ、私も首都圏エリアでやったらどうか、と考えていました。女性知事(山形県)の吉村(美栄子)さんもなんとか山形県で、と動いたようですが、最後には自民党の県議団が猛反対して頓挫させられてしまうんですね。タバコの火の不始末による火災も多い。木造の文化財が多い京都府にも働きかけたんですが、やはりなかなか難しいんです」

──神奈川県の受動喫煙防止条例では、今年3月の厚労省案と同じように第2種施設の特例として「床面積(調理する施設部分を除いた)100平米以下の飲食店。700平米以下のホテルと旅館その他これらに類する施設」は努力義務となっている。

 

松沢「あれは今から考えれば大失敗です。しかし、当時の神奈川県議会ではあれ以上つっ跳ねると条例が通らなかった。罰則をつけ、3年ごとの見直し、ということでなんとか納得してもらったんです。ただ、罰則があるとはいっても、神奈川県はこれまで一件も検挙してません。100平米以下の小さなお店は守りませんし、どんどん形骸化しているんじゃないでしょうか。最初にこうした条件を付ければ、反対派は必ずそこを攻めてきます。今回は厚労省も免責規定を入れてしまった。『神奈川県は100平米なんだから国は30平米でなんとかお願いします』なんて言ってくるようになる。一歩譲歩すれば、どんどん譲らなければならなくなる、最初はきっりとした案で頑張らなければダメだ、と私は言っているんです」

 

──反対派の主張はどうか。

 

松沢「反対派の中には、松沢が神奈川県でやったんだから各都道府県でやればいい、と主張する人もいます。東京五輪のため、というのなら、東京都だけでやればいいじゃないか、という話です。しかしこれは私も神奈川県で経験したことですが、必ず『県境問題』が出てくる。川崎のパチンコ屋さんは客を大田区に取られる、湯河原の旅館の女将さんは客は熱海に行く、と心配するわけです。非喫煙者のお客さんのほうが多いんだから、私はむしろ逆にお客さんは増える、と考えているんですが。また、日本型の分煙社会をつくればいい、という人もいます。しかし、五輪をやる以上、国際基準くらいは最低でも満たさないと恥ずかしい。東京都で小池(百合子、都知事)さんはやるかもしれませんね。自民都議団はタバコ対策強化に反対しているので、小池さんが官邸とタッグを組めるテーマの一つでもあるんです。ただ、これは県境問題もあって、やはり国単位で取り組むべき問題です」

──受動喫煙防止対策の強化について。

 

松沢「私としては『内外分煙』の考え方です。屋内は原則として禁煙、罰則付き、ということであり、小さいお店ほど受動喫煙の害は深刻なんです。一方で喫煙者のことも考えれば、問題は『内と外』だと思う。屋内が禁煙なら外で、ということになりますが、自治体によっては路上喫煙も厳しくなっています。そこで、外での喫煙はOK、だけど路上に隔離された喫煙所をたくさん設置する。路面店の多い欧米ではドアの『内と外』というように分けていますが、小規模飲食店が入った日本の雑居ビルもビル外や屋上に出れば喫煙可とします。今のような開放されたものではない、密閉された屋外の喫煙所はJT(日本たばこ産業)や海外のタバコ会社に作ってもらえばいい」

──今後、受動喫煙防止対策強化の改正法案はどうなるか。

 

松沢「塩崎(恭久)厚労大臣は、かなり積極的に受動喫煙防止対策に取り組んでいます。それは我々にとっても本当にありがたいことなんですが、同じ自民党内で反対派から目の敵にされているようなところがある。そのため、双方で意地の張り合いのようになってしまい、反対派をさらに結束させている要因の一つになっているんです。一方、安倍さんと政府官邸の態度はしっかりしています。実際、官邸のある方は連休明けまで待ってくれ、そうすれば状況も変わるだろう、とおっしゃってくれてもいる。塩崎さんもそれがあるから反対派と厳しく対峙しているわけで、私は官邸が仲介役、調整役になって与党内を取りまとめ、なんとか今国会中に改正案を通すんじゃないか、と期待しています」

今国会の会期は6月18日までだ。憲法改正論議やいわゆる共謀罪法案など、国会で議論の必要な課題は山積している。会期延長の声も出始めているが、受動喫煙防止対策強化も国民の健康を考える上で避けては通れない議題だ。大型連休明けの国会でこの法案がどう推移するか注視したい。

次回は、松沢議員に「タバコ利権」について聞いたインタビュー記事を予定している。