2017/5月9日(火) 15時0分-科学(石田雅彦)https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20170509-00070776/
自民党が5月8日、受動喫煙防止対策強化(健康増進法改正案)の政府・厚労省案に対する「対案」をまとめた。
規制強化に反対派である自民党たばこ議員連盟、容認派の自民党受動喫煙防止議員連盟、党の政調会長、歴代の厚労相経験者らが出席し、各紙報道によれば「望まない受動喫煙を防止するため、飲食店の中で大規模店は原則禁煙(喫煙ブースでの喫煙可)とし、小規模店は店ごとに対応を選択(表示義務)できる」とした内容だ(朝日新聞など)。
これは3月7日に自民党の規制反対派である「たばこ議連」が出した「飲食店は禁煙・分煙・喫煙の表示義務のみ」という対案(※1)よりは、やや前進、といったものだが、厚労省が3月1日に出した受動喫煙防止強化案の中にある飲食店についての「床面積30平米以下のバーやスナック以外は原則屋内禁煙」からは一歩も二歩も妥協後退した内容だ。
厚労省は、小規模なバーやスナックの中で個人オーナー経営など、従業員数が極力少ない面積、ということで「30平米以下」を提案する。労働環境を重視してのことだ。
前回の記事では、受動喫煙防止対策強化を求める松沢しげふみ参議院議員のインタビューを紹介したが、その中で「一歩譲歩すれば、どんどん譲らなければならなくなる」と述べているように、政府・官邸主導で厚労省が昨年(2016年)10月に出した屋内原則禁煙の「たたき台」と比べると、かなり後退した印象を受ける。自民党は、タバコの害やタバコを吸わない吸いたくない国民の健康について本当に考えてくれているのか、疑問を抱かざるを得ない。
なぜ自民党の一部は、これほどまで受動喫煙防止対策強化に反対するのだろうか。なにか「利権」のようなものがあるのだろうか。
そこで前回に続き、『JT、財務省、たばこ利権 ~日本最後の巨大利権の闇~』という著書もある松沢しげふみ参議院議員にそのあたりを聞いた。
──自民党の一部議員に対策強化への抵抗感が強い。これはなぜか。
松沢「タバコに関する法律や規制の多くには財務省が関わっています。特殊会社であるJT(日本たばこ産業)の所管は財務省ですし、たばこ事業法(財務省管轄)という法律でJTは守られている。タバコに関する諸税(国たばこ税、たばこ特別税)も財務省が握っています。国会議員というのは利害調整と陳情処理の仕事が大きいので、やはり予算を握っている財務省とは良好な関係を保っておきたい、と考えるんですね。市町村にとってもタバコの税収は大きい。財務省に逆らってまでタバコ規制強化の声を上げるのは難しいんです」
──財務省を気にしない議員もいると思うが。
松沢「いや、国会議員にとってタバコの問題は選挙にも影響します。地元にタバコ農家をもっている議員さんは、彼らを敵に回せば選挙に勝てなくなるかもしれない。たばこ販売に関する商業組合の方々も斜陽産業であるがゆえにロビー活動には熱心で、都市部の選挙ではそうした影響も無視できないんです。タバコ規制強化を求める我々の側には、医師会出身や出産経験のある女性といった議員が多く、健康とか安心とかハッキリ直接的な利害関係がみえにくい。一方、タバコ強化反対派はお金や選挙というハッキリ明確な利害がある。だからこそ、あれほど猛烈に反対してくるんでしょう」
──JTの存在はどうか。
松沢「国はJTの株式を3割ちょっと持っています。この配当金が大きい。小泉改革で独立行政法人が切られてしまい、霞ヶ関(官界)としては天下りOBを食わせていかなければなりません。財源がない中、JT株からの財政投融資が財務省にとっても貴重な財源になっている。高いときには700億円ほどにもなりますから、財務省にしてみれば『困ったときのタバコ財源』でもあり、90%以上がタバコ関連の収益であるJT株の配当が減らないようにしたいんですね。また、マスメディアもJTからの広告収入がバカになりませんから、タバコ規制について強い報道姿勢がなかなかとれない、という側面もある。いずれにせよ、塩も米も自由化になっている今、国が価格を決めている商品はタバコくらい。私は報道自粛も含めたこれらを総称して『タバコ社会主義体制』と呼んでいるんです」
──タバコ離れが進めばどうなるか。
松沢「JTもいろいろ考えているでしょう。M&Aを絡めた途上国への進出や諸外国のタバコ会社に出遅れた過熱式タバコへのシフトを進めています。また、高齢化が進むタバコ小売り店から販売免許をコンビニへ譲渡させようと画策しているようです。コンビニでのタバコの売り上げは大きく、今やJTとコンビニ業界は蜜月と言っていい。ただ、JTとしては海外戦略を考えれば、いつまでも財務省のヒモ付きでいるのは具合が悪いんですが、たばこ事業法で守られている現在の環境も手放したくないでしょう。私はよく『国が持っているJT株を売ってしまえば2兆5000億円くらいの財源になる。それを復興資金にまわせば、復興特別所得税もいらなくなって国民にとって減税になるから可処分所得が増えて消費も増える』なんて安倍(晋三、首相)さんに言っているんですが、財務省にとって自由に使えるタバコ関連は絶対に手放したくない財源ですからね。禁煙が進めばタバコ農家が失業すると心配する声もありますが、タバコというのは連作ができない作物なので、ほかの農作物を作っている兼作農家がほとんど。転作指導をうまくすればいいですし、日本のタバコ葉の質は世界的にも美味しいとされているので、もともと競争力は高いんです」
──タバコ規制についてどう考えるか。
松沢「私は受動喫煙防止対策については『内外分煙』を唱えていますが、タバコ規制は喫煙者をいかに減らすのか、ということも考えていかなければなりません。喫煙率が下がれば、自然に受動喫煙の害を受ける人も減る。それには学校教育も大事で、中学校からタバコ教育を導入すべきです。タバコを止めたい人をみんなでサポートし、応援してあげる。あと、値段を上げたり売っている場所を減らすなど、タバコを売りにくくすることも重要でしょう」
松沢議員が言うとおり、自民党内のいわゆる「タバコ族議員」には旧大蔵省・財務省出身の議員が多い。自民党たばこ議連も、会長の野田たけし議員、伊吹文明議員、金田勝年議員(法相)、宮澤洋一議員、中川雅治議員らが旧大蔵財務省の出身だ。また、こうした議連には参加していなくても、タバコ規制の強化に対して抵抗する議員の中には片山さつき議員のように旧大蔵財務省の出身者が多い。
5月8日に自民党内でまとめられた妥協的な「対案」は、安倍首相や官邸、厚労省の動きに対して先んじて手を打ったものだろう。官邸主導で進めている受動喫煙防止対策強化だが、党内の意見を一致させておけば与党を説得するのは難しい。タバコ対策強化を望む国民、政府と厚労省は、厳しい状況に追い込まれたと言っていい。