2018年02月08日木曜日 河北新報 http://www.kahoku.co.jp/editorial/20180208_01.html
これで本当に国民の「健康増進」につながるのか。極めて疑問と言わざるを得ない。
厚生労働省が新たにまとめた受動喫煙防止の対策案である。例外扱いで喫煙を認める飲食店の面積が焦点だったが、「150平方メートル以下」を軸に自民党と調整中という。
3月にも健康増進法の改正案を今国会で成立させ、ほぼ1年続いた同党との対立に決着をつけたい意向だ。
昨年決めた当初案は「30平方メートル以下のバーやスナック」に限定した。これほど拡大したら実効性は失われる。100平方メートル以下の店が7割以上の東京都の場合、大半が喫煙可。度を超えた妥協案だ。
日本は2020年の東京五輪・パラリンピックで「たばこのない大会」の実現を国際公約にしている。世界保健機関(WHO)からも規制推進を求められていた。
政府が法整備を急ぐのはそのためだが、肝心の「健康」がおろそかにされては本末転倒。規制強化を期待した多くの国民を落胆させる内容だ。
自民党との協議では「吸う権利もある」と指摘が相次いだという。その結果、客離れを危ぶむ業界に配慮した自民案を丸のみした。旧来型政治そのものではないか。
いったい何のための対策なのか。原点に立ち返りたい。「吸う権利」は認められるべきだが、「他人の吐いた煙を吸わない権利」を尊重するのが対策の根幹であるはずだ。
受動喫煙が原因で亡くなる人は年1万5千人と推計されている。肺がんになるリスクが1.3倍高まるという分析結果も明らかになった。
がん患者やぜんそくを患う子どもの病状悪化、乳幼児の突然死を防ぐ一助にもなる。人命に直接つながる問題であることを再認識したい。
政府の当初案より厳しい受動喫煙防止条例の制定を目指した東京都は2月議会への提案を見送った。小池百合子知事は「混乱が生じないよう注視する」と慎重姿勢だ。国と歩調を合わせる方針ならクリーンな五輪はさらに遠のく。
受動喫煙対策の迷走は国の「がん対策推進基本計画」に連動する。受動喫煙ゼロの目標を第3期計画に盛り込む予定だったが、断念。軸足が定まらない異例の事態が続く。一刻も早く収拾したい。
「まず一歩踏み出すことが大事」と厚労省幹部は言う。大手チェーン店と新規出店の例外規定の対象から外し、「時間がたてば(例外は)なくなる」との見方もある。しかし、これ以上の足踏みはもはや許されまい。
喫煙室による分煙効果の検証、「加熱式たばこ」の将来にわたる扱い方など幾つもの検討課題も残っている。
与野党は国会で議論を尽くし、実のある受動喫煙対策となるよう模索してほしい。
最優先すべきは国民の健康リスクを少しでも取り除く理念だ。世界水準に近づけていく努力を怠るべきではない。