社説 受動喫煙対策法/さらなる厳格化が不可欠だ

2018年07月20日 河北新報 https://www.kahoku.co.jp/editorial/20180720_01.html 

 

 他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙の対策を強化する改正健康増進法が成立した。東京五輪・パラリンピック開催直前の2020年4月に全面施行される。
 自民党が中小規模の飲食店に配慮するなどした結果、改正法は屋内禁煙の適用除外を広く認め、手ぬるさが否めない。世界水準と呼ぶにはほど遠く、国民の「健康増進」を図るには心もとない内容となった。
 改正法は、客席面積100平方メートル以下で資本金5000万円以下か個人経営の既存飲食店では、店頭に「喫煙可」などの表示をすれば例外として喫煙を認めた。屋内禁煙となる店は全国の約45%にとどまる。受動喫煙の被害が最も多い飲食店の半数以上で、例外として喫煙できるのでは受動喫煙を防ぐ対策とはとても言えまい。
 喫煙できるエリアへの20歳未満の立ち入りを禁じているが、飲食店では学生のアルバイトなど未成年者の従業員も多い。どれだけの実効性があるのか、疑問が残る。
 公共的な場所である学校や病院、児童福祉施設などは原則禁煙だが、屋外喫煙所などを設ければ敷地内で喫煙できる。子どもや患者、妊婦などが受動喫煙にさらされないよう万全を期してほしい。
 改正法を巡っては、厚生労働省が昨年3月、小規模なバーやスナック以外の飲食店を原則禁煙、学校や病院は敷地内も全面禁煙とする案を公表した。しかし自民党内の規制慎重派が抵抗し、中身が後退した経緯がある。
 政府は今回の改正法により、世界保健機関(WHO)の規制レベルは1ランク上がるとするが、日本の規制レベルは現在、4段階の最低だ。186カ国のうち病院や学校、行政機関、飲食店、バーなど公共の場全てを屋内全面禁煙とする国は55カ国に及ぶ。
 日本でも受動喫煙防止への意識が広く定着するよう、政府は取り組みを推進するべきだ。学校での禁煙教育などの充実も急務だろう。
 国とは別に東京都は6月、東京五輪・パラリンピックを見据えて独自条例を制定。飲食店は面積にかかわらず、従業員を雇っていれば原則屋内禁煙とした。喫煙専用室の設置は認めるが、その中で飲食はできない。規制対象の店は都内の約84%となり、国よりも厳しい。
 国も東京都も対策を急いだ背景には、WHOなどが進める「たばこのない五輪」の実現を迫られたことがある。だが、受動喫煙の防止対策はそもそも、五輪のためではなく、国民の命と健康を守るためのはずだ。
 受動喫煙は肺がんや脳卒中、乳幼児突然死症候群のリスクを高め、毎年1万5000人が死亡しているとの推計もある。
 煙害対策に甘い日本で、これ以上の遅れは許されない。さらなる対策が必要だ。