たばこ全面禁煙めぐり自民党内紛 たばこ業界からの自民党議員への献金も背景に


 

東京五輪・パラリンピックに向けて厚生労働省が公表した、他人のたばこの煙にさらされること(受動喫煙)を防ぐ対策が、自民党内で激しい反発にあっている。

飲食店での喫煙を原則禁止としつつ小さなバーなどは例外とした妥協案なのに、慎重派の議員が「まだ規制が厳しすぎる」と騒いでいるのだ。推進派は全面禁煙を譲った厚労省案でもやむなし、と受け入れる構えだが、慎重派の鼻息は荒く、決着の行方は見通せない。

厚労省は、受動喫煙で肺がんなどのリスクが高まるとし、国内で年間約1万5000人が死亡していると推計している。にもかかわらず、今の日本の対策は努力義務にとどまり、世界保健機関(WHO)からは「世界で最低レベル」と断じられている。国際オリンピック委員会とWHOは「たばこのない五輪」で合意しており、政府としても2020年の東京五輪に向けた対策は避けられない。

規制強化策を検討してきた厚労省は1日、禁煙の場で繰り返し喫煙する人に30万円以下の過料を科すといった罰則付きの案を公表した。(1)小中高校や医療機関は敷地・建物とも全面禁煙(2)官公庁や老人福祉施設は建物内禁煙(3)オフィスや飲食店(屋外テラス席も)禁煙──としつつ、(3)は建物内に喫煙室の設置を認めている。

(3)の飲食店には、焦点の居酒屋や焼き鳥屋も含まれる。ただし、慎重派に配慮し、「小規模」なバーやスナックなどは喫煙可とした。厚労省は小規模の定義を「面積30平方メートル以下」とする意向だ。昨年10月に示した「たたき台」は例外を設けていなかっただけに、規制推進派は「後退」と受け止めている。それでも、慎重派は居酒屋などが規制対象として残ったことに「飲食業への打撃が大きい」とさらなる妥協を求めている。

厚労省案は早くから水面下で広がり、内容を知った慎重派は不満を募らせていた。同省は3月に健康増進法改正案としてまとめ、今国会に提出することを目指しているが、それを見越した慎重派は、2月15日の自民党厚労部会に大挙して乗り込んだ。関係業界団体の代表が見守るなか、「分煙を成熟させるべきだ」「30平方メートルに何の根拠があるのか」などと推進派を責め立てた。

【安倍首相は沈黙】

一見、飲食業界の応援団が多いように見える。しかし、WHOによると「喫煙規制による飲食業の減収はない」。実際、慎重派の中核は、たばこ業界の発展をうたう「自民党たばこ議員連盟」の面々だ。たばこ業界は多くの自民党への献金を怠らない。

同議連の野田毅会長は「禁煙よりは分煙」と強調し、坂本哲志事務局長は「禁煙なのか分煙なのか、経営者が選択できる仕組みが必要」と訴えている。

このままでは党内合意を得られないと危惧した自民党の茂木敏充政調会長は2月24日、田村憲久元厚労相や同省の二川一男事務次官らを呼んで調整に乗り出した。が、厚労官僚は動けない。塩崎恭久厚労相が「居酒屋には子どもさんも訪れる。外国人への『おもてなし』を掲げる五輪で、受動喫煙はあり得ない。妥協するな」とハッパをかけているからだ。3月3日の記者会見でも「五輪開催国で飲食業を受動喫煙禁止にしていない国は近年ない」と強調した塩崎氏に、自民党幹部は「厚労相が堅い。3月中の法案閣議決定は難しい」とこぼす。「慎重派が大多数のように見えるが、自民党内で厚労省案に反対しているのは6割ほど。東京五輪・パラリンピックを控え、醜態をさらすのが格好よくないことは慎重派も分かっている」。

2月22日、国会内であった受動喫煙防止を推進する超党派の議連で、尾辻秀久元厚労相は慎重派の歩み寄りに期待を込めた。とはいえ、自民党の内紛が伝播し、民進党内も慎重派と推進派が割れ始めている。自民党内からは「100平方メートル以下」を規制の例外とする神奈川県条例を参考にすべきだ、との声も上がるものの、1月の施政方針演説で受動喫煙対策の徹底を表明した安倍晋三首相は、依然沈黙を守っている。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、3月10日号)