2017/10/30 神戸新聞 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201710/0010688247.shtml pdf
政府は、国のがん対策の指針となる第3期がん対策推進基本計画を閣議決定した。焦点の一つだった「受動喫煙にさらされる人をゼロにする」との目標設定は断念した。受動喫煙対策を強化するため並行して議論していた健康増進法改正が見通せなくなったためだ。
厚生労働省が、小規模なバー・スナックを除いて飲食店を原則禁煙とする改正案を示したのに対し、自民党は、一定面積以下では店頭に表示があれば喫煙を認めるなど例外を広げるよう主張して譲らなかった。
厚労省は法案提出後、整合性のある数値目標を基本計画に追加するというが、当初の目標から後退するのは明らかだ。
健康への影響を考え、公共の場を原則禁煙とするのが世界の潮流である。受動喫煙対策に後ろ向きな姿勢は、流れに逆行しているというほかない。
現在の第2期計画は、受動喫煙にさらされる人の割合を「22年度までに行政機関と医療機関は0%、家庭は3%、飲食店は15%に減らす」と掲げている。厚労省の専門家会合は、新計画で「家庭や飲食店も受動喫煙ゼロ」と、より厳しい目標を明記すると全員一致で決めた。
飲食店などでの受動喫煙がなかなか減らない現状を変えるには必要な目標設定といえる。
がん対策基本法施行から10年。1、2期計画は、全国で適切な医療が受けられる体制づくりや登録制度の推進、患者の就労支援などが盛り込まれ、「10年間で死亡率20%減」の目標を掲げてきたが達成できなかった。
3期は、がんになる人を減らすため、予防と早期発見の取り組みを強化するのが特徴だ。国立がん研究センターによると、受動喫煙は肺がんのリスクを1・3倍に高める。予防に欠かせない受動喫煙対策の目標設定を先送りするようでは、政府の本気度が疑われる。
国民の健康を守る観点から、「受動喫煙ゼロ」の目標を基本計画に明記すべきだ。目標達成のために、禁煙化に取り組む飲食店や職場の支援や、禁煙治療への補助などの仕組みをつくるのが国の仕事ではないか。
20年の東京五輪・パラリンピックに向け、実効性のある法改正も急がねばならない。