2018/07/29 神戸新聞社説 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201807/0011490433.shtml
他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙をなくすための改正健康増進法が成立した。多くの人が集まる建物内を罰則付きで原則禁煙とする。東京五輪・パラリンピック開幕前の2020年4月に全面施行する。
ただし、最も受動喫煙の機会が多い飲食店は、例外規定により全体の55%で喫煙が認められるという。これでは「ザル法」のそしりは免れない。今回の改正を足がかりに、さらに厳しい規制に踏み込むべきだ。
改正法では、学校や病院、保育所、行政機関の屋内は完全禁煙となる。飲食店や職場も原則禁煙だが、煙が外に漏れない喫煙専用室があれば吸える。
焦点だった飲食店の扱いは、客席面積が100平方メートル以下の既存店を規制から外す経過措置を設け、店頭に「喫煙可」などと表示すれば喫煙を認める。屋内完全禁煙が世界標準の今、海外から訪れる多くの人がその緩さに驚くのではないか。
国は当初例外なく禁煙とする方針だったが、たばこ産業や飲食業界に配慮する自民党の反対で例外が広がった。国会では規制強化を訴えるがん患者の参考人に自民党議員が心ないやじを浴びせる場面もあった。国民の健康を守る視点から真摯(しんし)な議論がなされたのか疑問が残る。
最近人気の加熱式たばこは受動喫煙の影響が不明との理由でより緩い規制とした。有害性が否定できない以上は同様に規制するのが法の趣旨ではないか。
受動喫煙が原因の死者は年1万5千人に上る。徹底的な防止策は待ったなしだ。政府は飲食店や職場の取り組みを厳しく監視するとともに、経過措置の早期解除など例外をなくす道筋を明確に示すべきだ。
国に先立ち、従業員のいる飲食店を原則禁煙とする条例を定めた東京都では84%の店でたばこが吸えなくなる。大阪府や千葉市も国より厳しい規制を検討している。13年に罰則付きの受動喫煙防止条例を施行した兵庫県では、実効性を高めるための見直し論議が進む。
全面禁煙にした外食チェーンでは、子ども連れなど新たな客層をつかむ契機になった例もある。自治体や飲食店の取り組みとも連携し、受動喫煙のない社会を実現しなければならない。