社説 【受動喫煙対策】これでは防止にならない

2018.02.10 08:00  高知新聞 http://www.kochinews.co.jp/article/159474/ 

 

 厚生労働省が受動喫煙の新たな対策案を発表した。大手チェーンや新規開業の飲食店は原則禁煙とする。病院や学校、官公庁などは敷地内の喫煙を原則禁じる。
 たばこの煙は周りの人にも深刻な健康被害をもたらす。多くの人が集まる店や公共施設の禁煙強化は当然であろう。
 問題は、この対策案には抜け穴が目立つことだ。既存店への規制が当初案より大きく後退した。
 経営規模の小さな店は、一定の面積以下なら例外的に喫煙を認める。厚労省は対策案でその面積を具体的に示していないが、客席面積100平方メートル以下とする方向で自民党と最終調整している。
 この規模の店は調理場が50平方メートル程度であることが多い。実質的には店舗面積150平方メートル規模までを例外扱いすることになる。
 当初、厚労省は店舗面積30平方メートル以下にする方針だった。これに「待った」をかけ、見直しを迫ったのが自民党のたばこ議員連盟だ。
 東京都の調査では、面積の網を150平方メートルにまで広げると、都内の9割以上の店が喫煙可能になる。これでは防止策にはならない。
 新規店は面積によらず原則禁煙なのに、既存店は大半が喫煙可能というのもおかしな話だ。
 厚労省は3月にも健康増進法改正案を国会に提出するという。何のための法改正なのか。政府与党は協議し直すべきだ。国会にも徹底した論議が求められる。
 受動喫煙はがんや心筋梗塞などの原因になることが知られている。政府も受動喫煙防止を健康政策の柱の一つに据えてきた。
 規制を強化する理由には2020年の東京五輪・パラリンピック開催もある。世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は10年から「たばこのない五輪」を推進している。日本はそれを前提に招致したといってよい。
 自民党の議連は「吸う権利」を主張している。それは否定しないが、だからといって他人の健康を害してもよいことにはなるまい。
 対策案では、新規店も含め、飲食できない「喫煙専用室」を設ければ喫煙できる。加熱式たばこは、専用の喫煙室があれば飲食しながら吸うことができる。これらも健康被害への懸念が残る。
 WHOが各国に求める規制は屋内全面禁煙だ。公共の場所を屋内全面禁煙にしている国は既に55カ国に上る。世界の潮流に比べても日本の姿勢は見劣りがする。
 東京都の動きも気になる。
 都執行部は、今月下旬に開会する都議会定例会に予定していた受動喫煙防止条例案の提出を見送る。当初の政府案を踏まえた条例を検討していたが、政府案が後退したため整合を図るという。
 五輪のためだけの規制強化ではないはずだ。日本で最も人口が集中する地域である。ここが旗を振らなくては受動喫煙防止策は進むまい。