<社説> 受動喫煙対策 “ザル法”に後退させるな

2017/11月29日  熊本日日新聞・社説 https://kumanichi.com/column/syasetsu/253593/ 

 

  こんな甘いルールで国際オリンピック委員会(IOC)や世界保健機関(WHO)が求める「たばこのない五輪」が実現するのだろうか。

 受動喫煙対策を盛り込む健康増進法の改正で、厚生労働省が店舗面積150平方メートル以下の飲食店は喫煙を認める新たな案を検討している。当初案の30平方メートル以下から大きく後退する内容だ。

 150平方メートルだと家族連れが訪れる店も含まれ、子どもにまで影響が及ぶ。たばこを吸わない人の健康被害を真剣に考えているとはとても思えない。

 受動喫煙対策の強化は世界の潮流だ。新しい案には医師会や患者団体などからも強い批判が出ている。厚労省は「望まない喫煙被害を防ぐ」という原点に立ち返り、せめて当初案に戻った法整備に取り組むべきだ。

 新たな案は、飲食店は原則禁煙にするものの150平方メートル以下なら店の判断で喫煙可とできる。ただし、新規開業店や大手チェーン店では喫煙を認めない。既存店への影響を考慮した形だが、見直し時期は設けていない。

 厚労省は2020年の東京五輪・パラリンピックまでの全面施行に向け、来年の通常国会への改正案提出を目指している。

 今年3月、厚労省は喫煙可能な店を30平方メートル以下のバーやスナックなどに限る改正案を示したが、「吸う権利」を掲げる自民党のたばこ議員連盟などが強く反発。自民党が150平方メートル以下の飲食店は喫煙を認める対案を示したが、決裂した経緯がある。新たな案は厚労省が自民党に歩み寄った形だ。

 ただ、東京都が15年度に行った調査では都内の飲食店の7割以上が面積100平方メートル以下だった。150平方メートルを基準にするなら大半の店が喫煙可となってしまいかねない。この案をもとに改正法が成立するなら現状追認のザル法と言わざるを得ない。

 自民党や飲食店は、喫煙規制で客が減ることを懸念する。その心配も分からぬではない。だが逆に「たばこの煙を嫌う客が増える」という調査結果もある。

 日本肺がん患者連絡会の調査では、患者の9割近くが飲食店での受動喫煙被害を訴えた。病気になった後も仕事をしている人の30%が職場で受動喫煙の被害に遭い、受動喫煙が原因で仕事を辞めざるを得なかった人もいる。

 たばこを「吸う権利」もあろうが、それは「他人の喫煙で健康被害を受ける人がいない」ことが条件のはずだ。吸う場所は、屋外喫煙所を拡充するなどすれば対応できるのではないか。

 海外では約50カ国が職場や飲食店など公共の場所での屋内喫煙を禁止している。日本も屋内での全面禁煙を求める「たばこ規制枠組み条約」を批准しているが、やっと屋内喫煙の規制が検討され始めた段階で、WHOの評価は4段階の最低レベルにとどまる。五輪開催国にふさわしい規制に向け、踏み込んだ議論を求めたい。