配信 熊本日日新聞 https://news.yahoo.co.jp/articles/fd34637bd684153e40418f784296aacb416b1270
禁煙志向や受動喫煙対策が進む中、注目されるようになった「加熱式たばこ」。健康被害や臭いが軽減されるとの期待で広まり、夏の全国高校野球選手権大会の観戦中、喫煙して問題となった県議が吸っていたのも加熱式だ。医療関係者は紙巻きたばこと同様に体への害があると指摘し、「健康被害がないというイメージは間違い」と警鐘を鳴らす。
加熱式は、たばこ葉やその加工品を電気で加熱し、発生させたニコチンを含むエアロゾル(液体や固体の微粒子)を吸入する。たばこ事業法で定められた「たばこ製品」で、2014年に発売された「アイコス」(米フィリップ・モリス社)が先駆け。一方、たばこ葉を使用しない電子たばこは「たばこ類似製品」となり、同法上のたばこに該当しない。
一般社団法人くまもと禁煙推進フォーラム副理事長で医師の高野義久さん=八代市=によると、たばこの煙には多くの有害化学物質が含まれ、がんや呼吸器疾患、認知症などあらゆる病気の発症や悪化に関連。中でもニコチンは、幸福感や満足感に関わる脳の「報酬系回路」を機能不全にし、気分の落ち込みや喫煙への渇望感が続くなど、依存に陥りやすい点が大きな問題という。
副流煙や吐き出す煙によって生じる受動喫煙にも同様の被害があるとされる。厚生労働省の研究班は16年、受動喫煙が原因の肺がんや虚血性心疾患、脳卒中、乳幼児突然死症候群による死亡者が年間約1万5千人との調査をまとめた。
加熱式と紙巻き、それぞれのエアロゾルを比較する研究や実験はいくつもあるが、ニコチンや発がん性のある有害化学物質の多くは確かに加熱式の方が少ない。ただ、高野さんは「量が少なくても、健康被害のリスクも同じく減るわけではない」と指摘。例えば1日20本を1本に減らしても、リスクは20分の1どころか半分も抑えられないという研究結果もあるといい、「有害な物質は、少しだろうが体に取り入れるべきではない」と強調する。
厚労省は加熱式の販売開始(14年)から間もないことから、「発生した煙が他人の健康を損なうおそれが明らかでないたばこ」と位置付けている。
望まない受動喫煙の防止を強化する改正健康増進法(20年全面施行)では、多くの施設で屋内の原則禁煙を義務付けたが、加熱式については受動喫煙のリスクが十分に解明されていないことを理由とした経過措置として、専用室を設ければ飲食が認められており、紙巻きよりも規制が緩和されている。
県議が喫煙していた阪神甲子園球場は、指定の喫煙所以外、加熱式も含めて禁煙だった。熊本市が受動喫煙対策として事業者向けに作成したステッカーや庁舎の掲示物には、禁煙に「加熱式を含む」とあえて併記し、注意を促している。
このように紙巻き以外も分煙の対象とされる中、高野さんは「加熱式ならば健康に問題ない」「受動喫煙のリスクは少ない」と考える喫煙者が少なくないことを不安視しており、「加熱式も含めたたばこのリスクを正しく知ってほしい」と話している。