子どもの聴覚障害の疑い、妊娠期の母親の喫煙で1.75倍に

京大、自治体がもつ乳幼児健診情報に着目

QLifePro 医療ニュース2018年7月26日 (木)配信 https://www.m3.com/clinical/news/618384

 京都大学は7月23日、妊娠期の喫煙と出生後の受動喫煙が、子どもの聴覚発達に影響を与えることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の川上浩司教授、吉田都美特定助教、Calistus Wilunda博士課程学生(研究当時、現:国立がんセンター特任研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、米際学術誌「Paediatric and Perinatal Epidemiology」のオンライン版に掲載された。

 胎児期や乳幼児期は、子どもの成長に与える影響が大きい時期であり、疫学研究の対象としても重要な発達段階だ。英国や北欧諸国では広く小児から成人、高齢者までを対象として、集団の健康を長期的に検討する研究(ライフコース疫学研究)がさかんに行われている。一方、日本では小児期から観察が開始されるような疫学研究や解析のためのデータは限られている。

 そこで研究グループは、自治体のもつ乳幼児健診情報に着目。乳幼児健診で取得される情報には、妊娠期の喫煙や飲酒の習慣、体調や家族の状況、出生時の体重や頭囲、乳幼児期の栄養方法、家族の状況、発達発育の状況や医師所見などがあり、疫学研究にとって貴重な情報となる。妊娠期の母親の生活習慣と子どもの出生状況を統計的に分析すると、妊娠期の生活習慣が出生にどのような影響を与えるかについて、知見を得ることができるとしている。

 今回研究グループは、神戸市の乳幼児健診情報を用いて、妊娠期の喫煙や生後の受動喫煙が、3歳児健診の聴覚検査結果に影響するかを疫学的に検討。2004~2010年に神戸市の乳幼児健診を受診した母子5万734ペアについて、後ろ向きコホート研究として検討。その結果、妊娠期に喫煙のない母親の子どもに対し、妊娠期に喫煙のある母親の子どもは、聴覚障害疑いの判定を1.75倍受けやすくなることが判明。また、妊娠期の母親の喫煙にくわえて出生後4か月に目前で喫煙する同居者がいる場合、子どもは2.35倍聴覚障害疑いの判定を受けやすくなることがわかったという。

 妊娠期の喫煙により胎児の発育が阻害されることは知られているが、同研究から胎児の蝸牛形成にニコチンが影響を与えている可能性が示唆された。また、生後の受動喫煙が聴覚に影響することについては、直接的な影響はわかっていないが、難聴の原因のひとつである中耳炎はタバコの副流煙があると治りにくいとされており、結果として聴覚に影響していることも考えられるという。

 今回の研究結果により、妊娠期の喫煙や幼い子どものいる家庭では、禁煙を促す必要性が再確認された。喫煙や飲酒、睡眠などの生活習慣は改善可能なものであり、妊娠を考える女性や乳幼児がいる家庭に対して啓発を行うことも効果的だとしている。今後は、妊娠期の喫煙や生後の受動喫煙が、アレルギー疾患に与える影響がどの程度あるのか検討していきたい、と研究グループは述べている。

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