東京都原則禁煙あと半年、飲食店が「シガーバー」衣替え 規制対象外狙い



毎日新聞
 https://mainichi.jp/articles/20191106/k00/00m/040/032000c

 



 来年4月に全面施行となる東京都の受動喫煙防止条例で、大半の飲食店が原則禁煙となるのを前に、バーやスナックが葉巻やたばこを楽しむ「シガーバー」などに“衣替え”する動きが目立っている。たばこ店の出張販売先になるなどのマイナーチェンジで「喫煙目的施設」とみなされ、規制の対象外になるからだ。店にとっては愛煙家をつなぎ留める秘策となりそうだが、厚生労働省からは「形式的に移行するのは、望ましくない」との指摘も上がっている。

 政府や都は、来年に東京五輪・パラリンピックを控え、国際オリンピック委員会が掲げる「スモークフリー(たばこの煙のない)五輪」の実現を目指し法令整備などを進める。

 改正健康増進法も、都条例と同じく来年4月から飲食店を原則禁煙にすると規定している。ただし、たばこや飲食店の業界団体などの反発で、当面は既存の小規模店(客席面積100平方メートル以下など)を対象外とした。

 都条例は店員らの望まない受動喫煙を防ぐため、従業員のいる飲食店は一律に原則禁煙とする厳しい規制をかける。対象は改正法が飲食店全体の45%にとどまるのに対し、都条例は都内の84%(約13万軒)まで広がる。

 一方、改正法では①たばこの小売販売業の許可を取るか、許可業者から出張販売を受ける②米飯・めん類といった「主食」を提供しない③未成年は出入りしない――などの条件を満たす施設は「飲食店」ではなく「喫煙目的施設」に該当し、今まで通り喫煙できる。

 飲食店に分類されるバーやスナックでも「主食」を出さないケースは多い。新たにたばこの出張販売先になるなど一部の業態を見直せば「喫煙目的施設」とみなされ、禁煙の規制はかからなくなる。

 都内のバーやスナックなど約2500軒でつくる「東京都社交飲食業生活衛生同業組合」は全国有数の繁華街を抱える新宿や高級クラブが軒を連ねる銀座など都内各地で「喫煙目的施設」化を望む加盟店を支援。「東京都たばこ商業協同組合連合会」と協定を結び、加盟店が出張販売をしてくれるたばこ店の紹介を受けられるようにした。

 加盟店の9割超を占める客席面積100平方メートル以下の店にまで規制をかける都条例の影響は大きく、塚口智理事長は「酒を飲みながらたばこを楽しむ店が生き残るには、これしか道はない」と言う。

 財務省関東財務局によると、都内で許可したたばこの出張販売は昨年度が241件。今年度は9月までの半年間で179件に上っており、前年を大きく上回るペースだ。担当者は「都条例の全面施行を見据えた動きがあるとのうわさは聞いている」といぶかる。

 一方、都条例の制定を後押しした都医師会の尾崎治夫会長は「経営者は、従業員の健康を守る責務があることを認識してほしい」と強調し「非喫煙者は8割を超えている。将来的に客や従業員から選ばれない店になり、生き残れなくなるのではないか」と指摘する。

 厚生労働省健康課によると、シガーバーのような店が飲食店とみなされ、業務に支障が出ないよう改正法に「喫煙目的施設」の規定を設けたという。同課は「元々『喫煙目的施設』ではない飲食店が形式的に移行するのは、望ましいとは言えない」としている。

8割スモーカーのスナック、たばこ業界関係者のアドバイス受け

 
 東武東上線東武練馬駅近くの商店街にあるスナック「Pub Snack酒麗人(シャレード)」(練馬区)は、たばこの出張販売を受けることで来年4月から「喫煙目的施設」になる。

 店は地元の常連客が中心で8割近くをスモーカーが占めることから店内を禁煙にするのは難しい。客席も約35平方メートルで、喫煙室を設ける余裕もなかった。

 そこでたばこ店を営む埼玉の実家に酒麗人への出張販売の許可を取ってもらい、都条例の規制対象から外れることにした。たばこ業界の関係者からアドバイスを受けたという。

 常連客の一人で30代の男性会社員は「もし吸えなくなるのなら別の店に行こうかと思う」と話す。店主の村上弥生さん(55)も「家でも、まともにたばこが吸えない人が増えているのに、店もダメじゃリラックスできないでしょ」と訴える。

 「主食」は提供できなくなるが、元々、客が注文するのはチーズやソーセージといったつまみばかりで、ほとんど影響はない。たばこを吸わない従業員も2人いるものの、村上さんは「みんな店の事情を納得して働いてくれている」と話した。