通院ゼロ「禁煙外来」山間部の村で広がる スマホ通して受診
完全遠隔禁煙外来の解禁は来年の東京五輪・パラリンピックに向けた国の受動喫煙対策の一つ。2017年7月、企業の健康保険組合などが実施する場合に限り条件付きで解禁された。
プログラムを提供する国内主要4社によると、これまでに都市圏の大企業など159社の約4300人が利用(10月末)している。そんな中、最大手のリンケージ(東京)が10月から初めて自治体向けにプログラムを提供。熊本県産山(うぶやま)村の国民健康保険加入者を対象に遠隔禁煙外来を始めた。
大分県境の山あいにある産山村は村内に診療所が一つあるだけ。従来の禁煙外来を受けるには約30キロ離れた近隣市町まで通わなければならず、村の診療所と提携している熊本市の熊本機能病院が仲介役になり、村とリンケージが昨年から導入を検討してきた。
人口約1500人の産山村は、呼吸器疾患の受診件数が全国平均(被保険者1000人当たり)の2倍に上り、喫煙との因果関係が指摘される肺がんや睡眠時無呼吸症候群などの医療費が村の国保財政を圧迫する一要因になっている。
背景にあるのは喫煙率の高さだ。17年度、村の住民健診では受診者の17・8%が「喫煙習慣あり」と回答し全国の14・1%を大きく上回った。村健康福祉課の高宮広志課長(48)は「会社勤めだと、社内での分煙・禁煙の機運の高まりを受けてたばこをやめる人が多いが、村は農家が多く誰も止めないので禁煙が進まない」と指摘する。
「これが4年ぶり、3回目の禁煙です」。畜産農家の西村直樹さん(46)は10月下旬、村役場で初回診療に臨んだ。専用アプリをダウンロードしたスマホで医師とテレビ通話しながら問診を受け、禁煙の動機などを説明。医師から1日約20本の喫煙が習慣化していると指摘され、服薬の他、吸いたい時はガムと目薬で紛らわすよう助言された。
2カ月の期間中は4回、テレビ電話で受診し、処方される禁煙補助薬を自宅に送ってもらう。期間終了後も3カ月ごとに経過報告してフォローを受ける。テレビ電話は予約した時間にどこからかけてもいいため、農作業の合間などに済ませられる。
「三度目の正直」を後押しする心強い味方に西村さんは「健康が心配だしお金もかかる。これを最後の禁煙にしたい」と意気込む。
村の受診者は10月の開始当初、男性6人だったが、12月からは女性も加わって計7人に。初診から1カ月あまりたった西村さんも禁煙を継続している。高宮課長は「村として禁煙をバックアップして村民の健康づくりにつなげたい」と話している。