毎日新聞
来年の東京五輪・パラリンピックに向け、たばこの煙から周囲の人を守る「受動喫煙対策」が春から強化されます。たばこは喫煙者だけでなく煙を吸わされる人の健康も害することが分かってきて、国は罰則付きの規制に踏み切りました。何がどう変わるのでしょう。
◆飲食店では吸えなくなるの?
なるほドリ 近所のお兄さんが、来年から禁煙すると決めたんだって。「吸っていい場所が減るから」って言っていたよ。
記者 来年4月に改正健康増進法が全面施行され、飲食店やホテル、事業所などの中では原則、喫煙できなくなります。特に飲食店は、厚生労働省の調査で「たばこの煙にさらされた」という声が一番多い場所なので、ここが規制対象になる影響は大きいでしょう。
Q 全面的に禁止されるの?
A いいえ。表のように、例外が設けられています。大まかに言うと「喫煙専用の部屋の中なら吸っていい」「専用の部屋を作れないような狭い店は、店主が喫煙可と決めてもいい」というルールです。ただ、国とは別に条例を作った東京都は「従業員がいない店に限る」という条件も付けて、例外を減らしました。千葉市も同様の条例を作っています。
Q でも、お店に入ってみないと分からないんじゃ、困るなあ。
A ご心配なく。喫煙可の店は、店の前にその掲示をする義務があり、しないと罰則の対象になります。
◆「紙巻き」以外も健康を害するの?
Q 表に「加熱式たばこ」ってあるよ。あれは何?
A タバコの葉を燃やすのではなく、電気で温めて蒸気を吸うタイプの新しいたばこで、愛好者が増えています。これは規制が少し緩く、専用の場所で吸いながら飲食してもいいことになっています。
Q 害が少ないから?
A うーん、難しいですね。確かに加熱式たばこの蒸気は、紙巻きたばこの煙よりずっと有害物質が少ないのですが、ゼロではありません。依存のもとになるニコチンも含まれています。新商品なので、まだ長期の健康影響は分かりませんが、厚労省は「安全とは言えない」との立場です。
Q 周りにいる人に対してはどうなの?
A 紙巻きたばこの場合は、受動喫煙でも健康に害があるのは科学的に明らかだと言っていいでしょう。たばこの先端から出る「副流煙」という煙は、本人が吸い込む「主流煙」より有害物質の割合が高いことが分かっていて、赤ちゃんが急死するリスクを高めるとのデータもあります。加熱式には副流煙がなく、臭いもほとんどない製品もありますが、吸った人が吐く「呼出(こしゅつ)煙」による健康影響を指摘する専門家もいます。
Q 「電子たばこ」というのも聞いたことがあるよ。
A 海外では、加熱式よりメジャーです。リキッド(液体)を電気で温め、気化させて吸います。日本では液体にニコチン成分が入ったものは販売が認められておらず、法律上は「たばこ」の扱いにはなりません。海外ではさまざまな香りを付けられる点が若者に人気で、喫煙との関係が疑われる死者も出ているため、米国やフィリピンで販売禁止の動きが出ています。
Q ニコチンが入っていないなら、禁煙したい人にはいいんじゃない?
A 議論は割れているようですが、国立がん研究センターは「電子たばこを使った禁煙の有効性は低い」との見解です。製品によってはホルムアルデヒドなどの発がん性物質が発生するとの報告もあります。誰でも決意すればたばこをやめられるわけではないので、禁煙したければ医療機関で治療を受けましょう。公的医療保険も適用されます。
◆箱の警告表示も強まるんだって?
Q たばこの関係で、他に変わることは?
A たばこの箱(パッケージ)には、健康被害を警告する注意表示をすることが義務付けられていますが、これまで「全体の30%以上」だった表示面積が、4月から「50%以上」に引き上げられます。ただ、海外のたばこは、病気になった臓器の写真などを警告に使っているので、見比べると印象は弱いですね。「もっと喫煙者に訴える表示にすべきだ」と、独自の案を公表した医師や研究者の団体もあります。
Q どうして画像付きにしないの?
A 消費者の気分を害するデザインはよくない、という考えはあるでしょう。一方、禁煙推進の団体などが問題視するのが、たばこの製造や販売の方法を規定する「たばこ事業法」を財務省が所管している点です。たばこは価格の6割以上が税金なので国にとっては重要な収入源です。パッケージの注意表示も財務省が決めていますが、これではアクセルとブレーキを同じ官庁が握っているようなもの。「たばこ事業法ごと、健康政策を担う厚労省の所管にすべきだ」との声は根強くあります。(くらし医療部)<グラフィック・樫川貴宏>