感染症と闘う

新型コロナ/11 喫煙に肺炎重症化リスク

毎日新聞

 新型コロナウイルスを巡り、喫煙者が感染すると肺炎が重症化しやすくなるという研究報告が相次いでいる。愛煙家だったコメディアンの志村けんさんが2週間ほどの闘病生活の末、新型コロナで亡くなったことは記憶に新しい。シリーズ「感染症と闘う」の新型コロナ編11回目では、喫煙がもたらす重症化の仕組みや、禁煙のメリットについてまとめた。

 「喫煙は新型コロナウイルスに感染した際、肺炎が重症化する最大のリスクだ」――。日本呼吸器学会は4月、国民向けのメッセージで禁煙を呼びかけた。

 喫煙者は重症化しやすいという研究報告が相次いでいる。中国のチームは2月、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に新型コロナに感染した国内の患者1099人を分析した結果を投稿。現在喫煙しているか過去に喫煙歴があった158人のうち、38人(24%)が重症化した一方、喫煙していない人で重症化した患者は14%にとどまった。喫煙者や経験者は、非喫煙者より重症化リスクが1・7倍高かった。

 さらに、中国の研究者が武漢で新型コロナウイルスに感染して肺炎を引き起こした78人の患者を分析すると、喫煙歴がある人は、ない人に比べ重症化リスクが約14倍に跳ね上がった。同じコロナウイルスである重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)が流行した際も同じ指摘があった。

 ●防御機能が低下

 なぜ重症化するのか。たばこの問題に詳しい東北大の黒澤一教授(産業医学)は「たばこに含まれる有害成分は気道の細胞を傷つけ、ウイルスに対する防御機能を低下させる。気道粘膜の免疫機能もうまく働かなくなる」と分析する。喫煙者は気管支に炎症が起きて肺胞が壊れる慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)を引き起こしやすい。肺機能が低下しているCOPD患者が感染後に肺炎を発症すると、低酸素血症で人工呼吸器が必要となるなど、より重篤な状態になる危険性が高いという。

 喫煙者は新型コロナウイルスに感染しやすいとも言われる。九州大病院の濱田直樹助教(呼吸器科)は、喫煙によって気道に生えた線毛の減少や機能低下が一因と指摘。通常、線毛は肺内に入ってくるウイルスなどの異物を押し出してくれる機能があるが、「線毛がなければ、異物を除去する防御力も弱く、感染が起こりやすくなる」と話す。

 米国の研究者は、経験者も含む喫煙者の肺では、新型コロナウイルスがヒト細胞に侵入する際の足がかりとなる特定のたんぱく質が活発化しているとみる。新型コロナウイルスは、表面にあるとげ状のスパイクたんぱく質がヒト細胞の「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」と呼ぶたんぱく質に結合して感染が起きるため、研究者は「喫煙者はこのACE2が多く、ウイルスへの感受性が高い可能性がある」と結論づけた。

 ●早期の禁煙が有効

 禁煙すれば、重症化リスクや感染しやすさを軽減できるのだろうか。喫煙で損傷を受けた肺の組織が完全に元に戻ることは難しい。ただし、濱田氏は「健康な人なら、禁煙後に1週間でニコチンが体内から消え、数週間で免疫力が上がってくる。肺機能の低下が著しい人でも、低下のスピードを抑えられ、免疫能力も復活するため、禁煙は早ければ早いほどいい。受動喫煙から大切な人を守るためにも、この機会に禁煙してほしい」と強調する。

 

 

 

 

 

喫煙所に集まる愛煙家たち=東京都港区で、